最新記事

弾劾裁判

米上院のトランプ弾劾裁判は数以上に汚いゲームになる

No One in the Senate Is Going to Follow the Rules on Impeachment. Try This Instead

2019年12月19日(木)16時30分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)

「大統領は法の上に立つ」というトランプの横車が通るのは民主主義の危機 Leah Millis-REUTERS

<合衆国憲法も無視して「法を超越した」トランプを守る気満々の共和党指導部。巻き返す方法はただ1つだ>

ドナルド・トランプ米大統領の弾劾裁判がいよいよ米上院で開始されることになったが、上院共和党のリーダーであるミッチ・マコネル院内総務は12月12日、FOXニュースのインタビューで、ホワイトハウスのトランプ弁護団と連携して事に当たると明言した。「(裁判の)間、私は全てにおいてホワイトハウスの顧問と足並みを揃える。要するに、大統領とわれわれの立場は完全に一致している」

陪審役を務める上院議員が被告人と手を組むと公言するのは前代未聞だが、誰もこの衝撃的な発言に驚いてもいないようだ。

共和党のリンゼー・グラム上院議員はさらに露骨に本音をぶちまけた。「下院から弾劾決議案が上がってくるが、すぐに葬る。葬るために、私は全力を尽くす。私の気持ちはもう決まっている。この裁判で公正な陪審員の振りをするつもりはさらさらない」

1999年に民主党のビル・クリントン大統領(当時)が弾劾訴追されたときには、証人喚問を強く要求したマコネルだが、今回は証人を呼ぶ必要は一切ないと主張している。

民主党はもちろんのこと、共和党の一部議員も、弾劾裁判でトランプ肩を持つというマコネルの発言に怒りを表明している。これでは裁判の体をなさない。

木を見て森を見ず

合衆国憲法には、弾劾裁判の権限は上院に専属するとし、その場合「議員は宣誓をしなければならない」と明記されている。上院規則の25項に記された弾劾裁判に関する宣誓の文言はこうだ。「これから行われる×××の裁判に属するあらゆる事柄において、私は合衆国憲法と法律に従って公平な裁きを行うことを厳かに誓う。神に誓って間違いなく!」

マコネルが2016年に、審議拒否の荒業を使って、バラク・オバマ前大統領が最高裁判事に指名した穏健派のメリック・ガーランドの承認を葬り去ったのは記憶に新しい。だが私たちは、その後も公正なルールが完全に死んだわけではないと信じてきた。上院規則は、弾劾裁判で議員は不偏不党の陪審員を務めなければならないと定めているのだ。

上院議員が大統領の個人的な利害のために働くことは憲法に反するが、そこを突かずに、もっと狭く、議員の宣誓義務を盾にとってマコネルを批判すれば、ロシア疑惑でトランプの弾劾を求めた民主党の一部議員が陥ったのと同じ罠に陥ることになる。つまり、ロバート・モラー特別検察官がトランプ陣営の司法妨害があったとアメリカの有権者に分かってもらうには、400ページに及ぶ報告書の何ページのどこにその証拠があるかをすべて示さなければならないが、ホワイトハウスと司法長官はたった2ページの虚偽の報告書で「大統領は潔白だ」と主張すれば済んでしまうのだ。

政敵のジョー・バイデン前副大統領と息子のウクライナ疑惑を暴くために、(軍事支援をエサにして)ウクライナ政府に捜査を依頼することが間違いであるのは、既に大半のアメリカ人が認めている。とはいえ、「軍事支援の見返り」とか「贈収賄」といった法律用語にこだわって、それが間違いだと主張しても、有権者を説得できなかっただろう。上院規則25項の宣誓の文言にこだわるのも、それと同じ誤りだ。「共謀」と「陰謀」がどう違うかといった木を見て森を見ない議論に持ち込んで、論点をずらすのがトランプ崇拝者の常套手段。右派の論客が揃うFOXニュースのトーク番組を見ればそれが分かる。

<参考記事>トランプ弾劾に立ちはだかる上院「3分の2」の壁
<参考記事>トランプ弾劾訴追、「2つの罪」に絞ったペロシが正しい理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英アングロ、BHPの買収提案拒否 「事業価値を過小

ビジネス

為替、基調的物価に無視できない影響なら政策の判断材

ビジネス

仏レミー・コアントロー、1─3月売上高が予想上回る

ビジネス

ドルは156.56円までさらに上昇、日銀総裁会見中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中