最新記事

中国

中国で捕らわれた外国人を待つ地獄の日々

A Cruel Fate in China

2019年12月17日(火)18時20分
ピーター・ハンフリー(調査会社チャイナワイズ創業者)

magw191217_china3.jpg

保釈中の孟晩舟CFO(女性)には一定の行動の自由がある AP/AFLO

たいていの被疑者は雑居房に入れられるのだが、2人のカナダ人は独房に閉じ込められている。そうした隔絶された状況では、物質的な欠乏に耐えるのも尋問に耐えるのも難しくなる。

中国は法治国家ではない。だから被疑者が公正な扱いや公正な裁判を受けることは期待できない。中国における司法機関は共産党とその幹部の利益に奉仕するだけの機関にすぎず、いわゆる「正義」とは無縁な存在だ。

中国共産党にとって、司法とは自らの利益と権益を守る仕組みだ。なにしろ党は、全ての法律を超越している。だから中国の警察は、まともな捜査をしない。裁判所も、証拠がなくても平気で被疑者に有罪の判決を下す。なぜなら、それが党の意思だから。

警察は物的証拠や科学捜査ではなく、状況証拠や伝聞証言に頼る。恐怖感と拷問を武器に被疑者に自白を迫る。証人は証言を強要される。時には被疑者を敵視する人物が証人役を買って出る。

私の場合もそうだったが、よく国営テレビでさらし者にされる。正式な訴追手続きを踏まず判決も出ていないのにテレビで虚偽の自白をさせられる。単なる虐待で、公正さも透明性もない。

貿易の犠牲になる国民

何千年もの歴史を持つ中国だから、外国人の身柄拘束や投獄は昔から珍しいことではなかった。皇帝が君臨した時代にも人質外交はあった。

とはいえ、こうした状況にはカナダ以外の国々も悩まされている。また、2人のほかにもカナダ人の被害者はいる。例えば、中国でスパイ行為を働いたとされるケビンとジュリアのギャレット夫妻。それはアメリカでお尋ね者になったスー・ビンという名の中国人スパイがカナダで逮捕されたことへの報復だった。この夫妻は私と同じ頃に、2年間拘束されていた。

習近平(シー・チンピン)国家主席時代になって、国営テレビでさらし者にする例は増えた。以前の自由化に向かう改革が逆行している。国民に対して強権的な共産党支配を強化し、外国人排斥のナショナリズムをあおり、他国への威嚇行為を繰り返し、諸外国への露骨な内政干渉を続けている。そして何かの計画をしたというだけの理由で外国人を逮捕してしまう。

なぜか被害が多い国はオーストラリアだ。賭博客誘致を疑われたとされるクラウン・カジノの職員18人のほか、中国生まれでオーストラリア国籍の人物(反体制活動家を含む)が逮捕されている。

スウェーデンにも被害者がいる。中国生まれでスウェーデン国籍の桂明海(コイ・ミンハイ)だ。香港で出版社を経営していたが「失踪」し、その後、中国のテレビでさらし者にされた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日に初対面 「困難だが建

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中