最新記事

日本

存続意義を失う地方都市

2019年12月17日(火)16時45分
江頭 進(小樽商科大学商学部教授)※アステイオン91より転載

Yue_-iStock.


地方都市は今後どうなっていくのか。5Gサービスが始まる2020年以降に地理的・経済的なデジタル・デバイドは解決できる一方、存在理由そのものを大きく変える可能性があると小樽商科大学の江頭進教授は指摘する。論壇誌「アステイオン」91号の「可能性としての未来――100年後の日本」特集より。

一〇〇年待つまでもなく、日本の地方都市は三〇年後ぐらいには人口が半減する。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の総人口はその後安定するとされているが、地方社会では人口が減少したゆえに、さらに社会減が続くと予想される。人口減少による自治体の税収減により、大都市圏に比べて、社会保障や公教育への投資が減少する。自治体収入の悪化による公共サービスの質の低下が、地域の崩壊を加速させることは、夕張市の例などですでに知られており、これが人口の社会的移動をさらに促す。人口減少に対応して地域をコンパクト化できたとしても、長きにわたって歴史を紡いできた日本の地方社会の多くが消滅することは不可避だろう。

それでは人口が減少した地方都市が巻き返す可能性はないのだろうか。実は五万人を超えるような市では、人々の利害関係が複雑で特定の産業を活性化しただけでは市民の平均所得を改善させることは難しいが、人口規模が小さい自治体では、一つの問題を解決することで所得を増加させることが可能なケースがある。北海道で言えば、日本一貧しい村と言われた猿払村が、ホタテ加工場の整備により、海外での需要の急増と相まって、住民の平均所得が全国で上位五位以内の常連となったケースは象徴的である。つまり、かつての競争優位と成長の源泉であった産業の衰退による困難に直面している地方都市でも、人口減少がさらに進むことで、逆に豊かに暮らすことができる別の可能性が見つかることはありうる。

技術的にもICT機器の発達により、少子高齢化などの地方社会が抱える問題への対応が進むだろう。現在は、高齢者がこれらのICT機器とそれによるサービスを十分に使いこなせておらず、自治体でもインフラやサポート体制の整備が進んでいないケースが多い。だが、一〇〇年経てば、日本で5Gのサービスが始まる二〇二〇年に生まれた世代すら以後の世代と入れ替わる。現在でもデジタル・ネイティブと呼ばれる生まれたときからスマートデバイスが身の回りにある若者の特徴がしばしば話題に上るが、5G以降ではスマートデバイスのような概念自体も過去のものとなり、空気や水と同じように情報をどこでも誰でもがそれと意識せずに利用することができるようになる。在宅で仕事をすることが当たり前になれば、地方から人が消えるという状況は回避できるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ベイン、富士ソフトに法的拘束力ある提案 1株94

ワールド

中国、政府債務「大幅増加」へ 経済回復を後押し

ワールド

アングル:南アジアで国境またぐ水害増加、求められる

ワールド

米、イランに追加制裁 イスラエル攻撃受け 「幽霊船
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 3
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギリス人記者が見た、「メーガン妃問題」とは?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    北朝鮮製ミサイルに手を焼くウクライナ、ロシア領内…
  • 6
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 7
    南極「終末の氷河」に崩壊の危機、最大3m超の海面上…
  • 8
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 9
    ウクライナには「F16が緊急にもっと必要」だが、フラ…
  • 10
    【クイズ】ノーベル賞の受賞者が1番多い国は?
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 3
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 6
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 7
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 8
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 9
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 10
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 4
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中