最新記事

北朝鮮

「麻酔なしで手術、妊婦見殺し」の北朝鮮が目を付けたメディカルツーリズム

2019年12月17日(火)15時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は今月、治療観光交流社が発足したと報じた(写真は昨年、医療機器製造工場を視察した金正恩) KCNA-REUTERS

<北朝鮮の医療は劣悪なことで知られているが、経済苦境の打開策としてメディカルツーリズムに注目している>

国際社会の制裁で苦境に追い込まれている北朝鮮が、打開策の一つとして打ち出しているのが観光業だ。昨年来、中国人観光客は急増しているものの、様々な課題が指摘されている。そのうちの一つが「見るべきもの」の少なさだ。

金剛山、七宝山、妙香山など名勝地は多数あるが、旧跡の類はさほど多くない。「革命史跡地」なら多数存在するものの、外国人の興味を引くようなものではない。そんな中で、北朝鮮が目をつけたのは医療だ。

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は今月6日、「わが国での治療観光とその展望」という記事を掲載し、メディカルツーリズムを専門とする治療観光交流社が発足したと報じた。

従来の名所旧跡を巡る観光に加えて、鉱泉療養所(温泉保養施設)や医療施設を活用したメディカルツーリズムを行うというこの会社、北朝鮮国営メディアのプロパガンダによく登場する病院での治療も受け付けるとのことだ。

「外国の観光客は今後、現代的な医療設備を整えた柳京(リュギョン)眼科総合病院と柳京歯科病院、平壌産院乳腺腫瘍研究所などで、白内障手術とインプラント、乳腺腫瘍治療はもちろんわが民族の伝統医学である高麗医学的治療の奉仕を受けることになる」(労働新聞)

金正恩党委員長は先日、ホテル、スキー場、乗馬場などを併設したスパリゾート、平安南道(ピョンアンナムド)の陽徳(ヤンドク)郡温泉文化休養地の竣工式に参加したが、治療観光交流社の発足はこのような流れと軌を一にするものと言えよう。

しかし、北朝鮮の医療は劣悪なことで知られている。英国政府は以前、自国民に対して、北朝鮮の医療施設は劣悪で、衛生水準は基準以下だと指摘。病院には麻酔薬がない場合がしばしばあるため、北朝鮮での手術はできる限り避けることや、即時帰国するように勧告したことがある。

<参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術...北朝鮮の医療施設

もちろん、一般的な外国人観光客が訪れるような地域にある大病院で、麻酔がないということはないだろうが、前述の平壌産院では今年6月に、呼吸困難を訴えてやって来た妊婦を、放置して死に至らしめる事故が発生している。その理由は、診察代としての「ワイロ」を払わなかったというものだ。

北朝鮮には陽徳のみならず、様々な温泉が存在し、ソ連式のサナトリウムでの温泉浴が楽しめる。しかし、北朝鮮医療の現状を考えると、本格的な手術をしようという外国人観光客はあまりいないだろう。

<参考記事:北朝鮮ベストツアー、実は近くて普通に行けるおすすめ北朝鮮旅行

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



関連ワード

ニュース速報

ワールド

オーストラリア経済は自立する必要、労使は和解を=首

ビジネス

中南米最大手のLATAM航空、米国で破産法申請

ワールド

独政府、社会的距離ルールを6月29日に緩和へ=報道

ビジネス

賭けマージャンが賭博罪かどうかは法務省が判断=安倍

MAGAZINE

特集:コロナ不況に勝つ最新ミクロ経済学

2020-6・ 2号(5/26発売)

意思決定の深層心理から人間の経済行動を読み解く── コロナ不況を生き残るため最新の経済学を活用せよ

人気ランキング

  • 1

    東京都、新型コロナウイルス新規感染14人に急増 緊急事態宣言解除の目安、3項目中2項目が基準下回る

  • 2

    「イギリスが香港のために立ち上がらないことこそ危機だ」パッテン元総督

  • 3

    新型コロナの死亡率はなぜか人種により異なっている

  • 4

    「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がア…

  • 5

    コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当…

  • 6

    日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいってい…

  • 7

    新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(2…

  • 8

    過激演出で話題のドラマ、子役2人が問題行動で炎上 …

  • 9

    異常に低いロシアの新型コロナウイルス致死率 陽性…

  • 10

    気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言し…

  • 1

    過激演出で話題のドラマ、子役2人が問題行動で炎上 背景には韓国の国民性も?

  • 2

    日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議

  • 3

    東京都、新型コロナウイルス新規感染14人に急増 緊急事態宣言解除の目安、3項目中2項目が基準下回る

  • 4

    「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がア…

  • 5

    カナダで「童貞テロ」を初訴追──過激化した非モテ男…

  • 6

    気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言し…

  • 7

    コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当…

  • 8

    「イギリスが香港のために立ち上がらないことこそ危…

  • 9

    反ワクチン派がフェイスブック上での議論で優勢とな…

  • 10

    新型コロナよりはるかに厄介なブラジル大統領

  • 1

    「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に

  • 2

    気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言したウイルス映画が語ること

  • 3

    金正恩「死んだふり」の裏で進んでいた秘密作戦

  • 4

    スズメバチが生きたままカマキリに食べられる動画が…

  • 5

    過激演出で話題のドラマ、子役2人が問題行動で炎上 …

  • 6

    優等生シンガポールの感染者数が「東南アジア最悪」…

  • 7

    コロナ禍で露呈した「意識低い系」日本人

  • 8

    日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいってい…

  • 9

    コロナ独自路線のスウェーデン、死者3000人突破に当…

  • 10

    ロックダウンは必要なかった? 「外出禁止は感染抑…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2020年5月
  • 2020年4月
  • 2020年3月
  • 2020年2月
  • 2020年1月
  • 2019年12月