最新記事

香港

金融情報大手リフィニティブがロイターの香港デモ報道を阻止、8月から200本以上

2019年12月16日(月)13時15分

検閲はロイターの報道・事業部門の幹部らを怒らせた。ロイターの独立性を守るための独立組織で「発起人株式」を所有するトムソン・ロイター・ファウンダーズ・シェア会社の理事らも憤った。

この理事長を務めるオーストラリア・メディアの幹部、キム・ウィリアムズ氏は10月にシンガポールのロイター編集部を訪れた際、記者らを前にリフィニティブを激しく非難。同社の行為は「忌むべき」もので、「政治によるむき出しの侵害」への降伏だと息巻いた。ロイターのスティーブ・アドラー編集主幹は11月、ロンドンで記者らに対し、検閲はブランドを「傷つけて」おり、「容認できない」と述べた。

事情に詳しい複数の関係者によると、リフィニティブのデービッド・クレイグ最高経営責任者(CEO)とトムソン・ロイターのジム・スミスCEOは問題解決に向け、今週を含めて複数回会談を持った。トムソン・ロイターの上級幹部によると、スミス氏はクレイグ氏が検閲を決めたと知って「非常に憂慮した」。関係筋の1人によると、両者が合意可能な解決策にどれほど近づけたかは不明だ。

リフィニティブの広報パトリック・メイヤー氏はフィルターシステムについて「当社が今年導入した手続きに改善の必要があることを認識し、鋭意取り組んでいる」との声明を出した。「グローバル企業であるリフィニティブは、事業を行う国の法と規制を順守しなければならない。これはリフィニティブだけでなく、金融市場情報を扱う他の企業や配信元も直面する課題だ」とした。

リフィニティブが創設されたのは昨年だ。巨大プライベートエクイティ会社ブラックストーン率いる企業連合がトムソン・ロイターのファイナンシャル&リスク部門の株式55%を買収することで誕生した。ブラックストーンはこの一環としてEikon端末事業を約200億ドルで取得し、ブランドを刷新した。

リフィニティブとトムソン・ロイターは緊密な関係を保っている。ロイターはEikon向けにニュースを販売しており、トムソン・ロイターはリフィニティブ株の45%を維持している。リフィニティブはロイターにとって、収入の約半分を占める最大の顧客だ。事業分離契約の一環として、リフィニティブはロイターに向こう30年にわたり年間3億2500万ドル(インフレ調整付き)を支払うことで合意。メディア事業では異例の契約で、ロイターにとって頼りがいのある収入源となっている。

ファウンダーズ・シェア理事らの憤慨ぶりは、ひとかたではなかった。トムソン・ロイターのスミスCEOに対し、記事を抑圧したリフィニティブは契約条件に違反していると苦言。また中国の要求に屈したリフィニティブは、他の国々でも記事を止め始めるのではないか、と不安を訴えた。

ブラックストーンが買収する前、Eikon事業はトムソン・ロイターが保有しており、ロイターの記事は中国のEikon上で阻止されていなかった。一方で、中国政府自体は長年にわたり、ロイターの一般読者向けのウェブサイト、Reuters.comや、その他多くの外国報道機関サイトへの国内アクセスを阻止してきた。

「禁止したいものがあるなら、中国に決めさせればよい」。世界貿易機関(WTO)前事務局長でファウンダーズ・シェアの理事を務めるパスカル・ラミー氏は言う。「ただ、あくまでリフィニティブやロイターの決定ではないということだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

ベネズエラ沖で2隻目の石油タンカー拿捕、米が全面封

ワールド

トランプ氏関連資料、司法省サイトから削除か エプス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中