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イラク

非暴力・非宗派のイラク反政府デモがもたらす希望と混乱

Between Hope and Fear

2019年12月12日(木)19時45分
伊藤めぐみ(イラク在住ジャーナリスト)

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デモ隊が治安部隊の動きを見張るために使うビル MEGUMI ITO

デモで第2の役割を担うのが、飛んできた催涙弾を処理する若者たちだ。非暴力の運動であっても加えられる攻撃には対処せねばならない。

「マスクとグローブをして最前線に立ち、飛んできた催涙弾をつかんで水に入れて止めるのが私たちの役割」と、普段はバグダッドの大学でロシア語を専攻しているというイリヤスが話した。高校生や大学生の参加もかなり多い。

取材中、トゥクトゥクと呼ばれる三輪自動車の運転手たちが何度も猛スピードで走り抜けていった。この運転手たちが第3の役割だ。前線で待機し、けが人が出るとトゥクトゥクに患者を乗せ近くの医療テントまで運んでいく。運転手は寄付などでガソリン代を賄いつつ、志願して三輪車を走らせている。

そして患者たちを受け取る第4の役割が医療関係者。比較的安全な場所にある広場や通り沿いにいくつも設置されたテントで手当てを行う。催涙弾が放たれると、猛スピードで走るトゥクトゥクが小さなテントに4人、5人と患者を運んで来るのにも遭遇した。

「毎日、こんな状況だ。重症の患者はテントではなく病院に運ばれるが、病院によっては患者がそこで逮捕されるということもある」と、公立病院からやって来た看護師ナディアが説明した。

ほかにも壁に絵を描いて抗議する人もいれば、炊き出しをする人、広場の掃除をする人たちもいる。これらの運動には明確なリーダーや組織があるわけではない。昔からの活動家が暴力を使わないようアドバイスをしているというが、基本的には若者を中心にした自主的な動きだ。

しかし、抗議者たちが対峙しているイラクの治安部隊は一体何をしているのか。覆いで隠されたテントで治安部隊から暴行されたという男性たちが匿名で話を聞かせてくれた。

「私はフラニ広場で機動隊に激しくたたかれた。自分より年を取った男性が捕まえられたので私を代わりに連れて行けと言った。そうしたら5メートルの橋の上から私もその男も突き落とされたんだ。私は両腕を骨折したが、病院に行ったら逮捕されてしまう。だから手は動かないままだ」

治安部隊の正体について人々は口々にこう言う。

「イラク軍の制服を着ているが本当にイラク軍かどうかは分からない。民兵も交ざっているかもしれない」

真偽は分からないがイラン政府が軍を送っている、イラクやイランの民兵もいるという話はさまざまな参加者から聞かれた。

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