最新記事

イラク

非暴力・非宗派のイラク反政府デモがもたらす希望と混乱

Between Hope and Fear

2019年12月12日(木)19時45分
伊藤めぐみ(イラク在住ジャーナリスト)

magw191212_Iraq2.jpg

バグダッドのタハリール広場に集まる反政府デモ隊(11月5日) AHMED JADALLAH-REUTERS

シーア派の人々の間でも、同じシーア派政権に不満がある。これら全ての問題は、同じシーア派であるイラン政府がイラクに介入をしているために起きている、という疑念が抗議運動となって爆発したのだ。

数年前までイラクを混乱に陥れたイスラム国騒動が、「宗教の問題で争っている場合じゃない」と人々の視点を変えさせた側面もある。

この運動を牽引しているのが若者であることも見逃せない。中部カルバラ出身の医学生ゼインはこう話す。

「平和的にやるというのを中心に据えてやっている。この原則を変えちゃいけない。私たちは21世紀にいるんだ」

抗議する人たちは信念を持ちつつ、運動を成功させるため役割分担を成立させている。

まず第1の役割を担うのは前線にいる若者たち。彼らは口々に話す。

「ただイラクの旗を振ってそこにいるという抗議なんだ。私たちは暴力を使わない」

この抗議行動はタハリール広場を占拠する動きと、その近くのチグリス川に架かる橋を渡って政権の中枢機関が集まる「グリーンゾーン」に向かおうとする動きで成り立っている。グリーンゾーンに向かう抗議活動と治安部隊の対峙は熾烈だが、抗議側は石を投げる人はいても、武器を手に入れることがそう難しくはないイラクで基本的には皆、丸腰だ。

一方で治安部隊の攻撃は日に日に強まっている。当初はゴム弾なども使っていたが、実弾を使う数が次第に増えているという。

最前線に立つデモ参加者の中には、戦闘経験のある元兵士も多くいた。

「私は元兵士。人民動員隊の一員だ。モスルやラマディでイスラム国と戦っていた。このおなかの傷痕はその時の戦闘の傷だよ」と、南部出身の元兵士が説明する。

人民動員隊はもともとイスラム国との戦闘のためにシーア派指導者アリ・シスタニの宗教令で集まった民兵で、後に正規軍に昇格した兵士たちだ。貧しい家の出身者が多く、イスラム国との戦闘で「荒くれ者」として噂された。そんな彼らがデモの現場で安全管理に当たっているのは意外な光景だった。

「私は人民動員隊を解雇された。仕事が必要なんだ」と、中南部ディワニヤ出身の青年アンマールは言う。「自分の信念からイスラム国と戦うために参加した。給料もないのは分かっていたからいい。でも政府はずっと腐敗している。人民動員隊に入ったのは国や人々を守るため。今ここにいるのも国や人々を守るため」。そうバグダッド出身のジャーシムは話した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都

ビジネス

豪年金基金、為替ヘッジ拡大を 海外投資増で=中銀副
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中