最新記事

ウクライナ

トランプのウクライナ疑惑より切実な「ウクライナ問題」とは何か

2019年12月9日(月)11時05分
タチアナ・スタノバヤ(カーネギー国際平和財団モスクワセンター研究員)

ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアと合意を結べるか REUTERS

<12月9日にパリで和平会談が開催されるが、そもそも、ロシアの目的はウクライナ東部の併合との見方は誤り。2014年から続く地政学的問題の解決に、今こそ本腰を入れるべき理由>

いわゆるウクライナ疑惑に端を発するトランプ米大統領弾劾騒動が連日大きなニュースになっているが、地政学的に切実なのはもう1つのウクライナ問題のほうだ。

2014年以降、ロシアがウクライナ東部への干渉を続けていて、ウクライナ政府と欧米諸国はそれを押し返せずにいる。その間、この地域では政府軍と親ロシア派の戦闘が泥沼化してきた。

この紛争を解決するために、12月9日、ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領、仲介役のマクロン仏大統領とメルケル独首相がパリで首脳会談を開く予定だ。本稿執筆時点でまだ結果は分からないが、目覚ましい進展は期待しづらい。双方の主張はあまりに懸け離れている。

いずれにせよ、アメリカ政府は今こそ、この問題の解決に本腰を入れるべきだ。ロシア政府内には、歩み寄りに前向きとも受け取れる動きが見え始めている。

アメリカはこれまで、この問題の本質を見誤ってきた。「ロシアがウクライナに侵攻したのは、ウクライナを完全に自国の一部にするためだ」といった分析を聞かない日はない。このような見方は対ロシア強硬論を勢いづけ、アメリカ政府の政策が話し合いよりも制裁に傾斜する状況を生み出してきた。

しかし、現実はそんなに単純ではない。ロシアがウクライナ東部の親ロシア派勢力を支援した当初の目的は、この地域を併合することではなく、ウクライナの政治体制を連邦制に移行させ、親ロシア派地域の自治権を法的に確保することにあった。

それが実現すれば、ロシアはウクライナのかなりの地域を影響下に置ける。それにより、ウクライナ政府が欧米に接近することに対して事実上の拒否権を握りたいと考えていたのだ。この点はプーチンの複数の発言からも明らかだ。

ロシア政府はこの問題で強硬ではあるかもしれないが、正気を失っているわけではない。ウクライナに侵攻して占領すれば、あまりに多大な犠牲とコストを伴うことくらい、プーチンも理解していただろう。それは、ロシアにとって決して割に合う選択ではなかったのだ。

ロシアに変化の兆し?

見落とせないのは、対ウクライナ政策に関してロシア政府内が一枚岩でないことだ。紛争が長期化するなかで、さまざまな利害や主張を持つ勢力がぶつかり合ってきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドとパキスタン、即時の完全停戦で合意 米などが

ワールド

ウクライナと欧州、12日から30日の対ロ停戦で合意

ワールド

グリーンランドと自由連合協定、米政権が検討

ワールド

パキスタン、国防相が核管理会議の招集否定 インドに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中