最新記事

中南米

麻薬都市メデジンがスマートシティーに──南米版ルネサンスの軌跡

The Medellín Miracle

2019年12月6日(金)17時20分
デービッド・フリードマン

2004年に開通したロープウエーは貧困層のライフラインにもなっている JOHN CRUX PHOTOGRAPHY-MOMENT OPEN/GETTY IMAGES

<貧困と犯罪にまみれたカルテルの本拠地メデジンが豊かで暮らしやすい町に変身を遂げた奇跡の裏側>

満員の客を乗せたロープウエーのゴンドラが、急な山の斜面を上がっていく──多くの人にとってはスキーリゾートを思わせる光景かもしれない。だがコロンビアの都市メデジンを囲む山の斜面は、かつてスラムだった貧しい地域だ。ここに暮らす人々にとって、ロープウエーは生命線であり、テクノロジーとデータに導かれて見事に生まれ変わったこの町の力強いシンボルでもある。

メデジンを生まれ変わらせるのに一役買った「技術」は、今はやりの自動運転車でもなければ人工知能(AI)でもない。それは最も効果が出る場所に新しいテクノロジーをどう導入するか、十分な情報に基づいて決めるためのデータ収集であり、格差解消につながる変化への支持を各方面から取り付けることだった。都市のスマート化について話し合う専門家の会合では、メデジンはしばしば都市の変革ビジョンを評価する物差しとして語られる。

スマートシティー計画というと、テクノロジーの知識があってリソースにも恵まれた人々が担い手であり、受益者でもあるケースが多い。だがメデジンの場合はほとんどの施策が、最も恵まれない層に焦点を当てたものだった。「スマートシティー化は中央で計画され、テクノロジー企業主導で進む傾向がある」と、世界各地のスマートシティーについて研究している英エディンバラ大学のソレダ・ガルシアフェラリ上級講師は言う。「メデジンは社会のあらゆる層を巻き込んで、コミュニティー自身が主導するやり方を模索した」

メデジンは長きにわたって麻薬カルテルの本拠地として世界にその名を知られていた。そんなメデジンがスマートシティーへの道を歩み始めたのは1990年代半ば。スマートシティーという言葉が一般的になるよりも10年以上前のことだ。

ミニ図書館が第一歩を記した

スマートシティー化は政党の異なる5人の市長に受け継がれてきた。今日では、メデジンの殺人発生率は1993年の20分の1となり、貧しい生活を送っていた住民の3分2近くが貧困状態を脱した。今ではほぼ全ての住民が教育や医療、交通機関、さまざまな文化的・経済的なサービスを完全に無料で受けている。

メデジンが生まれ変わる大きなカギとなったのは、テクノロジーそのものを目的化するのではなく、その先を見ていた市の姿勢にあるという点で、専門家の意見は一致する。メデジンは技術的・社会的な変化を日々の生活全体の改善に、それも町の隅々で(特に改善が最も必要な場所で)感じられるような形でつなげるすべを見つけたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日鉄が経営計画、30年度に実力利益1兆円以上 海外

ワールド

タイ首相、トランプ氏と12日夜協議 カンボジアとの

ビジネス

EXCLUSIVE-日銀、次回会合で中立金利の推計

ビジネス

英GDP、8─10月は0.1%減 予想外のマイナス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 4
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 5
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中