最新記事

ウイグル

ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を虐殺した」と言い始めた中国

China Hits Back at U.S. Human Rights Bill

2019年12月5日(木)17時45分
トム・オコナー

職業訓練のための施設とされる新疆ウイグル自治区の強制収容所 Thomas Peter-REUTERS

<ウイグル人弾圧をめぐり鋭く対立する米中。アメリカにも先住民虐殺や差別の歴史があるという中国の反論は事実だが、不毛だ>

米下院が12月3日、少数民族ウイグル族の人々を不当に拘束するなどしている中国を批判し、人権侵害に関わった当局者に対し制裁の発動を求める法案を可決した。中国政府はこれに反発し、アメリカが先住民を組織的に迫害した過去を槍玉に挙げ始めた。

中国外務省の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官は4日に開かれた定例記者会見で、米議会が可決したウイグル人権法案に触れ、中国政府は「激しい怒りを覚え、毅然として抗議する」と述べた。法案は「100万人を超えるウイグル人の大量収容など、普遍的に認められた人権 に対する甚だしい侵害」について、中国を非難している。ウイグル人は中国北西部の新疆ウイグル自治区に暮らす人々で、大半がイスラム教徒だ。

この世のディストピア、ウイグル自治区に女性記者が潜入


中国はこれまでもウイグル人弾圧に関する米政府の指摘を繰り返し否定してきた。華報道官は、中国のウイグル人政策は「人権、民族、宗教に対するものではなく、暴力、テロ、分離主義的な動きと戦うためのもの」だと主張。法案を通した米議会を「無知」で「恥知らず」と非難し、アメリカにも先住民迫害の歴史があることを持ち出して、「偽善的」と決めつけた。

「2世紀にわたるアメリカの歴史は、先住のインディアンの血と涙で汚されている。彼らのほうが先にこの大陸に住んでいたのに、19世紀以降アメリカは西漸運動を通じて、武力に物を言わせて先住のインディアンを排除し、虐殺して、広大な土地を占領し、膨大な自然資源を収奪してきた」

居留地の現状を批判

「そればかりか、アメリカは先住民に同化政策を押し付け、彼らを殺し、排除し、追放して、市民権を認めなかった」と、華報道官は述べた。「今では彼らはアメリカの人口のわずか2.09%を占めるにすぎない。居留地のインフラは未整備で、水も電力も不足し、インターネットへのアクセスもできず、失業、貧困、感染症、低い生活水準など、先住民は数々の困難に直面している。こうした衝撃的な事実を前にして、アメリカの政治家は知らん顔ができるのか。彼らの良心はどこへ行った」

コロンブスの米大陸到達以前の先住民の推定人口は研究者によって大きなばらつきがあるが、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームが今年発表した論文によると、コロンブス到達後の100年間に、ヨーロッパ人の侵入による感染症や戦争、飢餓などで、南北米大陸では、当時の世界の人口のざっと10%に当たる推定560万人の先住民が殺された。その後の数百年間にジェノサイド(集団虐殺)はさらに激化した。

1776年のアメリカ建国とそれに続く軍事的な領土の拡大で、先住民の強制的な同化、移住、根絶を目指す政策が奨励され支援された。米連邦議会図書館によると、先コロンブス期には北米大陸に1500万人もの先住民がいたが、白人入植者と先住民の抗争、いわゆる「インディアン戦争」が終息した19世紀末には、約25万人に減っていたという。

<参考記事>ウイグルを弾圧する習近平の父親が、少数民族への寛容を貫いていた皮肉
<参考記事>中国は「ウイグル人絶滅計画」やり放題。なぜ誰も止めないのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀の利上げ判断は尊重するが、景気の先行きには注視

ワールド

米中、タイ・カンボジア停戦へ取り組み進める ASE

ビジネス

日銀総裁、中立金利の推計値下限まで「少し距離ある」

ビジネス

英小売売上高、11月は前月比0.1%減 予算案控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中