最新記事

中国

ウイグルを弾圧する習近平の父親が、少数民族への寛容を貫いていた皮肉

Liberal Father, Illiberal Son

2019年12月3日(火)18時40分
ジョセフ・トリギアン(米外交問題評議会フェロー)

新疆ウイグル自治区カシュガルの巨大スクリーンに映る習近平 BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<徹底した弾圧を推し進める習近平の父はかつてイスラム教徒に理解ある姿勢を貫いていた>

中国によるウイグル弾圧をめぐり、中国当局の内部文書を基にしたとする報道が相次いでいる。ニューヨーク・タイムズ紙は習近平(シー・チンピン)国家主席が2014年の演説で、ウイグル弾圧に「容赦は無用」と述べたと報じた。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)も、大規模な監視システムを使って1週間に1万5000人余りのウイグル人が収容施設に送られたと伝えた。

しかしアメリカ国内の図書館で入手可能な他の機密文書によると、中国共産党が新疆ウイグル自治区に対して今よりはるかに寛容な姿勢を取っていた時期がある。しかもその政策と最も密接な関係がある人物は、習近平の実の父である習仲勲(シー・チョンシュン)だ。

仲勲は1949年に中国が建国された後、新疆ウイグル自治区を含む広大な地域を管轄する共産党中央西北局の第2書記となった。この地域には、ウイグル人やカザフ人などイスラム教徒が多く暮らす。仲勲は当時こう述べていた。「西北部に大きな特徴があるなら、それは民族関係の業務として対処すべきだ」

西北部の中国への統合は、平和的とは到底言えるものではなかった。約9万人の「無法者」が排除され、カザフ人の指導者オスマン・バートルは処刑された。とりわけ1950年5月以降、甘粛省でイスラム教徒の暴動が相次ぐと、仲勲は「民族関係の業務」には寛容な姿勢が必要だと考えるようになった。彼は中央の政治組織にイスラム教指導者らを引き入れることが、政府に反発する者たちに暴力をやめさせる一助になり得ると主張した。

1952年、新疆ウイグル自治区の共産党指導者だった王震(ワン・チェン)と鄧力群(トン・リーチュン)は、遊牧民が暮らす地域の反乱鎮圧を「行わない」とした西北局の決断を退けた。彼らの上司で西北局の書記だった仲勲は、これに激怒。一連の会議で仲勲に激しく糾弾されたため、王は号泣し、鄧は体重が10キロ減った。

父は弾圧を断固禁じた

1950年代末から60年代前半にかけて、仲勲は周恩来(チョウ・エンライ)の下で副首相を務め、宗教関連の業務も担当した。1958年に甘粛省アクサイ・カザフ族自治県を訪れた際には、地元当局が大勢の市民を逮捕したことを批判した。仲勲が特に強く非難したのが、女性のべール着用や男性のひげなどの民族的風習を「封建主義に逆行する」と見なす姿勢だった。

1980年代になると、仲勲は党の中央書記局書記の日常業務に加え、宗教とチベット、新疆ウイグル自治区など特別な政策分野を担当した。1980年代の共産党は「民族問題」の解決のために、共同事業、愛国教育、経済発展の促進という3つの政策によって少数民族の重要人物を取り込もうとしていた。だが仲勲は、それを「やり過ぎ」と感じていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中