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ミャンマー少数民族問題の新たな火種──仏教徒ゲリラ「アラカン軍」という難題

Minority Report

2019年11月28日(木)18時30分
今泉千尋(ジャーナリスト)

少数民族と国軍の戦闘が続けば、中国はミャンマー政府に和平を後押しする立場で影響力を行使できる。北部同盟は2017年以降、ミャンマー政府との和平協議に出席だけはするようになったが、それは中国側からの要請を受けてのことだといわれている。ミャンマーの実権を握る国軍も、紛争が続けば自国の治安維持に力を尽くしていると、国民に存在意義を声高に主張できる。

通訳のアウンは、ゲリラ隊で5年過ごした後、武装活動から離れた。戦いに身を置くうちに多くの市民が戦闘の犠牲になっていると気付いたからだ。「武力では問題を解決できない。本当に必要なのは教育だ」と思うようになり、友人とシットウェで英語塾を始めた。若者たちが豊かな知識や広い世界に触れる手助けをすることが彼の生きがいになった。

だが今年に入り、生徒たちが次々と彼の元を離れてアラカン軍に入隊した。かつての自分と全く同じ理由で、若者たちが戦場に向かう。

「アラカン軍が間違っているとは、僕には言えない。でも生徒たちが今までの学びを捨てて、兵士になるのは悲しい。彼らの訃報を聞くと、胸が張り裂けそうになる」

あるミャンマー研究者は、「ミャンマーでは紛争が秩序の前提になっている」と指摘する。70年以上も続く紛争は、政治・経済・生活の全てに入り込み、若者たちの情熱は、大国や権力者の都合のよい手駒にされる。気付かぬうちに戦争の負のサイクルにはまった人々が、そこから抜け出すのは容易ではない。

<本誌2019年12月3日号掲載>

【参考記事】ロヒンギャを迫害する仏教徒側の論理
【参考記事】終わりなきロヒンギャの悲劇

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