最新記事

アメリカ経済

トランプがマイナス金利にご執心!?──日本はトクしていると勘違い?

Japan’s Topsy-Turvy Economy Is the United States’ Economic Future

2019年11月14日(木)16時38分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)

長期の停滞から脱出しようと、強いカンフル剤を何度も打つ──そんな安易な治療用はかつて、日本経済の特殊性や日本の国民性のなせる業とみなされ、欧米のエコノミストに「ジャパン・プロブレム」と呼ばれた。だが今や、日本は例外ではなく、ほかの国々がたどる道を示す先例にすぎないとの見方が強まっている。

2013年に黒田東彦(くろだはるひこ)が日銀総裁に就任して以来、金融政策はそれまでよりはるかに攻撃的なものとなった。黒田は、2008年の金融危機の最中にFRBが主導した量的緩和を超える異次元緩和の導入を宣言。「質的・量的金融緩和」と呼ばれるこの政策は、各国の中央銀行と比べても桁違いの大盤振る舞いだった。

黒田は資金をジャブジャブ供給してデフレ思考から日本を解き放つと豪語。当初2年を目処に2%のインフレ目標を設定したが、今では楽観的過ぎたと認めている。それでも多少の効果はあった。0.5〜1%のペースで下がり続けていた物価は、現在1%弱のペースでまずまず着実に上昇している。

その間、日銀は短期金利をマイナス0.1%まで引き下げ、長期金利の指標となる10年物国債の利回りがゼロとなるよう買いオペレーションを行っている。だが、これには途方もなく大きなリスクが伴っていた。

財政ファイナンスの旨味も

日銀は目下、年間80兆円(約7350億ドル)の国債を買い入れている。証券市場にも積極的に介入し、ETF(上場投資信託)とREIT(不動産投資信託)を買い入れている。その危険性は、中央銀行のバランスシートが危険なレベルにまで膨らむ可能性があることだ。

黒田の就任以来、日銀の資産と負債は2.5倍に膨らみ、戦後初めて日本のGDPを超えた。伝統的な経済学の理論では、ここまで金融緩和が進めば、インフレの暴走が始まり、第二次大戦前のドイツのように国家が破産する事態になりかねない。

日銀が国債を買い入れてくれるのなら金利上昇で成長が阻害されるリスクもないため、政府はどんどん財政赤字を拡大できる。日銀は、国の借金を肩代わりしているという批判に強硬に反論しているが、今や国債の発行残高に占める日銀の保有比率は43%前後に上る。

もちろん、これは日本だけの現象ではない。2014年にマイナス金利を導入したECB(欧州中央銀行)は金融緩和を再開し、マイナス金利を深掘りして、9月にマイナス0.5%まで引き下げ、併せて銀行に及ぼす影響を軽減するため金利階層化を導入した。

ブルームバーグ・バークレイズ世界マイナス利回り債券指数によれば、世界のマイナス利回り債券の発行残高は今年8月時点で史上最高の17兆ドルに上った。その後ピーク時より減ったものの、現在でも世界の債券市場全体の15〜25%をマイナス利回り債券が占めると見られている。

「各国の中銀がほぼ軒並みマイナス金利に転落したが、予想よりもはるかに長く、この状態が続くことがようやく分かってきた」と、富士通総研の主任研究員マルティン・シュルツは言う。「日銀はそうしたトレンド上の点にすぎない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国のレアアース磁石輸出、7月は6カ月ぶり高水準

ビジネス

機械受注6月は3%増、底堅さ維持も「これから米関税

ビジネス

午前の日経平均は続落、一時700円超安 AI関連が

ワールド

米農務省、農場の太陽光・風力発電への監視強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 6
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中