最新記事

入管

女性の着替えやトイレを監視──入管が組織的セクハラ

2019年11月12日(火)13時12分
志葉玲(フリージャーナリスト)

フィリピン人女性Eさんは、日本人男性と結婚しており、二人の息子もいるにもかかわらず、もう3年近くも収容されているという。それは、彼女が以前交際していた日本人男性(現在の夫とは別人)に騙され、その男性の犯した犯罪に利用されたことで、彼女自身も有罪判決を受けたことが原因と考えられるが、既に刑法による処罰を受けたEさんを、さらに入管が収容し続けていることは、現在の刑法では認められていない予防拘禁*にあたる疑いがある。終わりのない収容に耐えかね、Eさんはハンガーストライキを行ったものの、独房に移される。そこでは、着替えもトイレも全て監視カメラに映ってしまうため、Eさんは「非常に強いストレスを感じています」と言う。

「以前は、自分からハンガーストライキをしていましたが、今はストレスのために食べ物が喉を通りません」(Eさん)。

つまり、女性としての尊厳を踏み躙る入管の暴挙が、Eさんを摂食障害に陥らせている疑いがあるのだ。筆者取材の時点では、懲罰房のトイレに高さ150センチ程の仕切りが設置されたものの、「監視カメラは天井に取り付けられているので、結局、全部映ってしまう」とEさんは言う。

*法で定められた刑期を終えても、「再犯抑止」等を口実に、引き続き身柄を拘し続けること。戦中の治安維持法で、思想犯に適用された。

nyukanfoto3.jpg
東京入管前で抗議する市民団体SYIメンバー達 筆者撮影


もう一人の女性、Dさんはトルコ籍のクルド人難民。トルコでは少数民族クルド人への様々な抑圧があり、トルコ治安当局や一般人による暴力や殺害等が横行している。そのため、Dさんは一年程前に庇護を求めて来日したが、入管施設に収容されてしまった。DさんはEさんと同時期にハンガーストライキを行ったものの、やはり懲罰房に入れられてしまう。着替えやトイレを監視される屈辱に、Dさんは「男性職員も見ているんでしょう?」と泣き叫んで抗議したが、入管職員たちは「仕方がない」と言うだけだった。

「私はイスラム教徒です。この様な辱めを受けることは、とても耐えられません。私の宗教や文化からは絶対あり得ない......」

そう、Dさんは筆者に訴えた。

残り一人のスリランカ人女性には筆者は取材できていないものの、入管問題に取り組む市民団体「収容者友人有志一同」(SYI)メンバーの織田朝日さんによれば、毎日、口癖のように「殺してほしい」と訴え、今年9月には置いてあったポットのコードで自殺を試みたという。入管職員の制止で命を落とすことはなかったものの、精神的にかなり追い詰められている状況だと言えよう(関連情報)。

これらの状況は既に述べたように今年10月での取材時点のものであり、現状はまた変わっているかも知れないが、いずれにせよ、深刻な女性達への人権侵害が行われていたことには変わりはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設

ビジネス

独、24年成長率予想を若干上方修正 インフレ見通し

ビジネス

ドル34年ぶり155円台、介入警戒感極まる 日銀の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中