最新記事

子供

結婚に学習修了証が必要に? 幼児の3割に障害のあるインドネシア、育児・栄養学の普及へ

2019年11月18日(月)16時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)

インドネシアの赤ちゃん Beawiharta Beawiharta-REUTER

<出生率が2.4人という国で、育児を学ぶことを結婚の前提条件とする動きが>

インドネシアで今後結婚しようとするカップルは、結婚生活で子供をもつために必要な一定の乳児・幼児教育や栄養学といった知識を習得して「結婚するに十分な準備が整った」という証明書が必要になるかもしれない、というショッキングなニュースが「ジャカルタ・グローブ」(電子版)で報じられ、若い男女の間から戸惑いの声があがる事態になっている。

10月23日に発足したジョコ・ウィドド大統領の2期目新政権で新たに人間・文化開発担当調整相に任命されたムハジル・エフェンディ氏が講演で明らかにした。

11月13日にジャカルタ南郊のボゴールの国際会議場で開催された全国知事、市長、地方政府の長を集めたセミナーでムハジル調整相は「インドネシアの将来を担う子供たちの間で発育障害や成長障害の問題が深刻化している」と問題を提起し、そのうえで「こうした問題の一因には子をもつ両親の乳児、幼児の成長に関する知識の不足、栄養学の理解欠如などが影響していると考えられる」との認識を示した。

そしてこうした問題の解決策の一つとして「今後結婚を考える若い男女に対して乳幼児の育児、栄養摂取、生活習慣などに関する事前学習を受けさせ、その学習課程を修了したという証明書のようなものを発行し、それを結婚の前提条件とするようなことも検討してみてはどうだろうか」という案を示した。

米の研ぎ汁に砂糖でミルク代用

ムハジル調整相は元教育文化相で教育行政にも精通しているイスラム教徒だが、「インドネシアの5歳以下の幼児の31%が成長・発達障害を抱えていることを示している」(2018年保健省調査)というデータを重視していることを明らかにしている。

こうした成長・発達障害の一因として両親の栄養に関する知識不足、乳幼児の発育、成長に対する知識の不足あるいは欠如があると指摘されている。

インドネシアでは地方や貧困層では未だに母乳や粉ミルクの代用品として砂糖がたっぷり入った甘い紅茶やコメの研ぎ汁に砂糖を加えたものを乳児に飲ませる習慣が残っている。

さらに幼児のころから大人同様に「ゴレンガン」といわれる野菜などなんでも油で揚げた食料を与えたり、ヤシ油やヤシ汁を大量に含む食料品を与えたりするなど栄養面での知識不足が発達に影響を与えているとという。

また都市部の中間層以上は平均気温が30度前後のため乳幼児もエアコンの冷房下で就寝することが多く、冷房のない家庭では少しでも涼しいようにと床に直接寝かせることなどから体が冷えて風邪や疾病にかかることも多いとされている。

こういった育児に関する知識を学習する機会はインドネシアではほとんどなく、「家庭や地域で親や年長者から伝えられるだけ」というのが実状で、「コメの研ぎ汁に砂糖でミルクの代用」など、昔ながらの「生活の知恵」だけが伝えられており、「(育児をするには)不適切かつ不十分」(ムハジル調整相)という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中