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監督インタビュー

アルモドバル70歳にして語り得た珠玉の物語

His Most Personal Movie

2019年10月26日(土)17時45分
ジューン・トーマス(スレート誌記者)

――あなたの映画では、重要な出来事が起きる前に登場人物が水にぬれる。

気付かなかった。

――例えば『欲望の法則』では、ホースで水をまいている人にカルメン・マウラが「私に水を掛けて!」と叫ぶ。

あれは自慢のシーンだ。撮影中から、素晴らしいものを撮ったぞという手応えがあった。

マドリードでの『神経衰弱ぎりぎりの女たち』を撮影していたとき、批評家のスーザン・ソンタグが訪ねてきて、あのシーンを絶賛してくれた。風にまくれ上がるマリリン・モンローのスカートのように、人の集合的無意識に刻み込まれると言ってくれた。今回もそんな場面があったかな?

――(少年サルバドールを性に目覚めさせる労働者の)エドゥアルドが水で体を洗うシーンがある。

体が汚れていたからだ。

――そういう設定にしたのはあなたのはずだ!

確かにエドゥアルドの体を汚したのは私だ。私にとってはとても大事なシーンだから。性欲の原点はめったに語られない。記憶にある限り、9歳の少年少女が初めて抱く欲望を取り上げた映画は見たことがない。

この映画では欲望の原点を説明したかった。サルバドールは欲望が芽生えた瞬間を意識している。けれども子供なので説明する言葉を持たず、圧倒されて失神してしまう。

――ペネロペ・クルスもアントニオ・バンデラスも名優だが、あなたの映画では特別に光っている。あなたがいつにも増して深い感情を引き出しているようだが、秘訣は?

ありがとう! うれしいことを言ってくれるね。私も同感だ。あの2人は私を信頼してくれている。他の監督は私ほどあの2人を知らないのかもしれない。私たち3人はずいぶん前からいい友達でね。撮影に入る前にはリハーサルに何カ月もかける。そんな現場は、めったにあるものじゃないと思う。

そこが私の強み。2人はいつでも全力で演技するが、私とは特別な信頼関係で結ばれていて、他の監督の前ではやらないことも快くやってくれる。

安心できるからだ。私が見ているのを知っているからだ。私がばかげたことや、間違ったことは絶対にさせないと分かっているからだ。その安心感が2人を解き放つんだ。

©2019 The Slate Group

<本誌2019年10月29日号掲載>

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