最新記事

災害

ジャングル火災はアマゾン以外でも インドネシア、オランウータンなどに深刻な影響

2019年9月28日(土)16時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

相次ぐ目撃に「野生動物緊急事態」進言

カリマンタン島ではこのほかにも野生のオランウータンがプランテーションに出現したという目撃情報が複数寄せられている。

9月12日に中カリマンタン州バアマン地区のあるパームヤシのプランテーションで農民が大きなオランウータンを目撃した。大きさや足跡から成人のオスとみられている。

また9月16日には同州カンダン村のゴムやパームヤシのプランテーションが集中する地区に続く道路でオランウータンが目撃されている。目撃者の情報などから若いオスとみられており、同じ場所ではマレーグマの足跡も発見されている。

いずれの目撃ケースも係官が駆けつけたがオランウータンの発見、保護には至っていないとしている。

こうした相次ぐ目撃などから、森林火災による影響でジャングルから野生動物が生息域の外に出没する事態になっているものとみられている。

自然保護庁関係者はカリマンタン島の全域でプランテーションの労働者や農民、一般市民に対し「もし野生の希少動物を発見しても捕獲しようとしたり、殺傷したりしようとせずに自然保護関係者に連絡してほしい」と呼びかけている。

また、「ジャカルタ・グローブ」(電子版)などが伝えたところによると現在、中カリマンタン州パランカラヤにある「ボルネオ・オランウータン・サバイバル基金」のリハビリセンターで合計37頭のオランウータンが森林火災の煙害による呼吸器系疾患の治療を受けているとことがわかった。

9月17日、世界自然保護基金(WWF)インドネシア支部はインドネシア政府に対して「絶滅の危機に瀕した希少動物を含めた野生動物が、森林火災や煙害による深刻な被害、影響を受けている」として「野生動物緊急事態」を宣言するよう求めた。

影響拡大で死者も、頼りは雨が実情

政府環境当局や自然保護NGOなどによると2019年9月末までに焼失した森林、原野は約30万ヘクタールにのぼっている。現在もスマトラ島やカリマンタン島を中心に約1000のホットスポット(火災地点)が確認されているという。

広範囲にわたる煙害で人体への影響が深刻化しており、東カリマンタン州では呼吸器系疾患で4カ月の乳児が死亡した例が報告されている。煙害はシンガポールやマレーシアにも流れて大気汚染を引き起こしており、AFPによるとマレーシアでは首都クアラルンプールの300校を含む全国で2500校の学校が大気汚染で休校する事態になった。

インドネシア国内では煙害により視界が500メートル以下に低下したことから1日に100便近い定期航空便がキャンセルした日もあるという。

このように国内外の人々の生活環境が影響を受けるなか、インドネシア政府はジョコ・ウィドド大統領がスマトラ島の火災現場を視察し、消火作業への軍兵士や警察官の投入、不法に放火した容疑でこれまでに230人を逮捕するなど懸命の対応を続けている。

アマゾンやオーストラリアでもジャングル火災や山火事が相次いでいる中、インドネシアの森林火災は隣国の人々の健康被害や希少動物の生態系にまで影響を与えるほど拡大、深刻化している。しかしジョコ・ウィドド政権としては実質「雨頼み」以外に有効な対応手段がなく人為的原因とはいえ自然の脅威の前になす術がないのが実情だ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、マスク氏盟友アイザックマン氏をNASA

ビジネス

10月マネタリーベース7.8%減、14カ月連続のマ

ワールド

政府閉鎖さらに1週間続けば空域閉鎖も、米運輸長官が

ワールド

UPS機が離陸後墜落、米ケンタッキー州 負傷者の情
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中