最新記事

自然環境

野生のイルカの抗生物質への耐性が著しく高まっていた......

2019年9月27日(金)18時45分
松岡由希子

追跡調査で、抗生物質への耐性がさらに広がっていた...... ClaraNila-iStock

<家庭の生活排水や病院の医療系排水が川や海に流されることで、野生の水生動物にも影響をもたらしていることが明らかとなった......>

抗生物質への耐性を獲得した細菌が増加し、私たちの健康を脅かしつつある。米国では、抗生物質耐性菌による感染症に年間200万人以上が罹患し、少なくとも2万3000人が死亡している

抗生物質耐性菌が家庭の生活排水や病院の医療系排水などに残存したまま川や海に流されることで、海水に抗生物質耐性遺伝子が数多く存在することもわかっている。そしてこのほど、これが、野生の水生動物にも影響をもたらしていることが明らかとなった。

追跡調査で、抗生物質への耐性がさらに広がっていた

米フロリダ・アトランティック大学ハーバー・ブランチ海洋学研究所を中心とする研究チームは、2003年から2015年にかけて、フロリダ州インディアン・リバー・ラグーンで生息する野生のバンドウイルカを対象に、抗生物質耐性について長期調査を実施。

学術雑誌「アクアティック・ママルズ」で2019年9月11日に公開された研究論文によると、バンドウイルカが体内に保有するいくつかの細菌種において、抗生物質への耐性が著しく高まっていたという。

研究チームでは、2009年時点で、野生のイルカに抗生物質への耐性が広がっていることを明らかにし、その後も経過を追跡調査していた。合わせて13年にわたり、バンドウイルカ171頭の呼吸孔、胃液、糞便から733の病原体分離株を採集して多抗生物質耐性(MAR)指標で評価したところ、1種類以上の抗生物質に耐性を持つ分離株が全体の88.2%を占めていた。

呼吸器感染症や皮膚感染症など、感染症の治療に広く用いられる「エリスロマイシン」に耐性を持つものが91.6%と最も多く、77.3%で耐性が認められた「アンピシリン」、61.7%が耐性を持つ「セファロチン」がこれに次ぐ。

また、「シプロフロキサシン」への耐性を持つ大腸菌分離株が調査期間中に2倍以上増加したほか、呼吸器感染症や尿路感染症を引き起こす「緑膿菌」は、どの個体でも最も多く見つかり、調査期間中に増えていた。さらに、「緑膿菌」と「ビブリオ・アルギノリチカス」の多抗生物質耐性(MAR)指標は、2003年から2007年までの期間よりも、2010年から2015年までの期間のほうが高くなっていた。

自然環境にもたらす影響の貴重な指標生物に

研究論文の共同著者でジョージア水族館のグレゴリー・ボサード博士は、「バンドウイルカに抗生物質への耐性が広がっている。これが人類の健康や自然環境にどのような影響をもたらすのかを解明するうえで、バンドウイルカは貴重な指標生物だ」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中