最新記事

中東

トランプの無為無策がイラン危機を深刻化させる

Trump’s Incoherence on Iran

2019年9月24日(火)19時50分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

これまでの米政権は、サウジアラビアが友好的な原油供給国であるとの理由からその機嫌を取ってきた。だがアメリカのエネルギー自給率が約90%に拡大している今、原油供給国としてのサウジアラビアの重要性は減少している。それでも、特別な関係を維持すべき新たな理由があると、トランプは主張する。サウジアラビアはアメリカから大量に武器を購入し、「現金払い」をしてくれる、と。

つまりイランをめぐる危機からの脱出を阻む最初の障害は、あらゆる外交政策を取引という狭い視野で判断するトランプの性向にある。厚遇するかしないかは支払うカネの額、あるいはその国の指導者がトランプ個人に(本気であれ嘘であれ)示す忠誠の度合い次第なのだ。

2番目の障害は、イラン核合意離脱の撤回を拒むトランプの姿勢だ。

この問題に関しては、心に留めておくべき点がいくつかある。第1に、最近に至るまで国際機関の査察官が複数回、イランは合意事項を遵守していると証言していたことだ。第2に、イランが合意したのは経済制裁解除が目的だったこと。第3に、アメリカの離脱と制裁再開で、イランが核合意にとどまる理由がなくなったことだ。実際、イランにとっては今や合意違反が、アメリカを引き戻すための唯一の切り札になっている。

爆弾を担いでもみ合えば

トランプが離脱を決めた主な理由は、バラク・オバマ前米大統領が合意を実現させたことにある。イラン核合意はオバマ外交の大きな勝利と評されたからこそ、トランプは「史上最低の取引」と痛罵せずにいられなかった。合意復帰と制裁再解除は、自分ではなくオバマが正しかったと認めるのと同じ。トランプがそんなことをするわけがない。

一方、イラン側はアメリカの合意復帰と制裁再解除がない限り、対米交渉はあり得ないとしている。彼らの立場で考えれば、至極もっともな主張だ。

「包括的共同作業計画」を正式名称とする核合意は米英仏ロ中独とイランが結び、国連安全保障理事会で決議された。イランの合意遵守は、定期的な査察を行うIAEA(国際原子力機関)が保証していた。それなのに、トランプは気に食わないという理由で離脱した。米政権が合意に復帰し、多国間外交と国際法を尊重する姿勢を示さなければ、イラン側がトランプの発言を信用すべき理由はゼロだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

7─9月の石油需要「非常に強い」=OPEC事務局長

ビジネス

中国6月鉱工業生産、+6.8%で予想上回る 小売売

ワールド

来日する米財務長官、万博出席以外の滞在日程は調整中

ビジネス

米GM、テネシー州工場で低価格のLFP電池生産へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中