最新記事

香港デモ

香港の運命を握るのは財閥だ

Being “Like Water”

2019年9月10日(火)17時00分
ライアン・マニュエル(元豪政府中国アナリスト)

magw190910_HongKong_Water2.jpg

デモ隊が手にする「傘」は2014年に続き運動のシンボルになっている KAI PFAFFENBACH-REUTERS

香港のデモでは、見る人によって異なる意味を持つさまざまなシンボルが使われている。欧米のポップカルチャーと香港特有の広東語の駄じゃれ、中国本土のデモの文化が入り交じっている。映画の授業で学んだソーシャルメディア活用法を実践することもあり、日本のアニメやアメリカの広告の手法も参照している。彼らは欧米諸国の政治家にダイレクトに訴え掛けようとし、外国の国旗を振ったり、国際的な新聞に広告を出したりもする。身内のチャットルームではフェイクニュースの排除に力を入れている。

そして何よりも、これは香港人から生まれた運動だ。デモ参加者はこう言う。「香港人なら自分で香港を救え」。掲示板やポスター、チャットルーム、バナーには、香港人にしか分からない独特な広東語の漢字が躍っていることも多い。

美意識も独特だ。いざ抗議デモに向かうときは全員が服装を黒で統一する。集結地点に向かうために乗り込んだ地下鉄の車内が真っ黒になるほどだ。

抗議活動を終えて帰るときは着替えて、一般の乗客に紛れ込む。地下鉄駅構内のトイレには事前に、着替えを入れた袋が用意されている。そして主要な駅構内の通路には、彼らを支持する文言を記した大きな付箋が所狭しと貼られている。

対する中国政府の意思伝達方法は全く違う。報道機関は共産党機関紙「人民日報」の論調に従う。どの新聞も記事については党宣伝局の承認を得なければならない。中国本土の庶民は交流サイト(SNS)をよく利用しているが、これも検閲される。政府の見解を代弁する書き込みをして稼ぐやからもいる。

そんな事態を許せないから、香港の若者たちは体制側の報道を信用しない。メッセージアプリのテレグラムを利用する若者たちはファクトチェック(事実確認)のセグメントを立ち上げ、自分たちの撮った動画で官製ニュースに反論している。

命令しないが妥協もせず

中国政府から香港への意思伝達には構造的な問題がある。直接の命令はできないから、しかるべきサインを用いて指示を送らざるを得ない。

「一国二制度」の建前を掲げる以上、中国政府は香港の既存制度を受け入れつつ実効支配を維持しなければならない。香港で選挙をすれば必ず民主派候補が一般投票で勝つが、彼らが行政長官を指名することはできない。長官候補は上から決められた「選挙委員会」を構成するさまざまな職能・社会団体の意向で選別されている。

中国政府が香港当局に直接の命令を出すことはないようだ。中国本土では、共産党支配は明瞭な命令と大まかな指示の二本立てで、中央からの漠然とした要望に現場は忖度で対応する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ、砂糖輸入に新たな関税導入 値下がりや供給

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、主力株高い SBGは大幅

ワールド

EU、森林破壊防止規則さらに1年延期を提案

ワールド

トルコ軍用輸送機がジョージアで墜落、少なくとも20
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中