最新記事

東南アジア

新たな衝突で幼児含む民間人3人死亡 インドネシア、パプア問題の情勢悪化

2019年9月20日(金)11時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

パプア人差別への反発は、独立を問う住民投票を求めるデモと騒乱へと変わった。Al Jazeera English / YouTube

<武装組織取り締まりの名目でパプア人住民に死傷者を出したインドネシア軍。高まる反発に懐柔策で鎮静化を図っていたジョコ政権だが、終わりの見えない社会不安でついに強硬手段へ>

インドネシアのパプア州で続くパプア人とインドネシア治安部隊との緊張状態の中で9月17日、インドネシア軍部隊による発砲でパプア人住民3人が死亡、4人が負傷する事件が起きた。死者には3歳の幼児が含まれているほか、16歳の少女ら4人が負傷したという。9月18日にインドネシア軍が明らかにした。

現地からの報道などによると、同州の中南部山岳地帯にあるプンチャック県オレン村で、17日、パプア独立武装組織「自由パプア運動(OPM)」の分派「西パプア解放軍(TPNTB)」とみられる武装したメンバーが伝統家屋に入るのを目撃した兵士らが家屋に向けて一斉に射撃を開始した。その結果内部にいた住民が死傷したという。

現地の軍関係者によると武装メンバーらは家屋を脱出してジャングル内に逃亡したものとみられ、依然として軍による捜索活動が続いているという。

パプア地方では8月17日に東ジャワ州スラバヤのパプア人大学生寮で発生した治安部隊要員らによるパプア人への差別的、侮辱的な発言をきっかけに、全国に散らばるパプア人が抗議の声を上げてデモや集会で「差別撤廃」を強く訴えた。

こうした動きに当初「パプア人もインドネシアの一部、共に繁栄しよう」などとして、強硬手段に訴えずに「懐柔策」をとっていた政府に対し、パプア人らは「差別の根底には抜きがたいインドネシアの支配思想がある」として長年の悲願である「独立の是非を問う住民投票」という政治的スローガンを前面に押し出す政治運動に発展させた。

掲揚、所持が禁じられているパプア独立の象徴とされる「明けの明星旗(モーニングスター旗)」をパプア人が堂々と振ってデモ行進するなど、事態は変質してしまったのだ。

政府はアメとムチで沈静化に躍起

こうした事態にジョコ・ウィドド大統領はパプア地方の要人をジャカルタの大統領官邸に招いて「別宅となる大統領宮殿をパプアにも建設する」「パプア人を政府機関などの公の組織に積極的に採用する」などの"懐柔策"で騒乱状態の沈静化を図ることに躍起となっていた。

ところがパプア地方での社会不安が一向に改善されないことから元国軍司令官のウィラント調整相(政治・法務・治安担当)やリャミザード・リャクード国防相ら軍出身の閣僚を中心に「パプア地方でのインターネットの接続制限」「外国人、外国メディアの現地取材の規制」「偽情報発信者の検挙」「独立運動関係者の身柄拘束」などという強硬手段による事態打開が現在進められている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中