最新記事

韓国【文在寅政権の成績表】

韓国・文在寅政権が苦悩する財閥改革の現在地

2019年9月27日(金)17時30分
前川祐補(本誌記者)

――自主改革以外の対策は?
政権は2年目に入ると本格的に改革を推進してきた。例えば公正取引法(日本の独禁法に相当)の改正と、商法の一部改正を発表した。つまり、自主改革だけではなく法的にも改革していくという意思を示した。

ただ、いずれにおいても財閥を徹底的に追い込むような「キラーコンテンツ」があったわけではなく、従来の規制を強化して財閥が好き勝手に動ける余地を狭めた、と言う程度と言うのが実態だ。

政権にとっては不幸なことに、少数与党のため国会に法案を提出しても野党から徹底した反対を受けている。結局、法案の提出から1年以上経過したが、いまだに通過していない。そのため大統領府と政府与党は、国会を通過させる必要のない施行令などで対応しようと協議を進めている状況だ。

加えて、これまで公取委員長として財閥改革の音頭を取ってきた金尚祚氏が、大統領府政策室長に異動した。基本路線は変わらないが、また引き続き財閥政策は金尚祚氏が主導するとみられるが、公取委の推進力を維持できるかは未知数である。全体としてみると、なかなか思うようには進められていない状況だと思う。

maekrzaibatsu1.jpg

政権と財閥の癒着に怒り朴槿恵政権退陣を訴えた「ろうそくデモ」(2017年12月) YUSUKE MAEKAWA NEWSWEEK

――目ぼしい成果を上げるとすれば?
財閥を含めた大企業による中小企業に対する経済力乱用の取り締まりの強化があげられる。

フランチャイズ制の企業でよくみられることだが、「親会社」がフランチャイズの店舗の利益の大部分を吸い取り店舗の売り上げは薄利という、支配的な経営手法がこれまで問題視されていた。新政権の公取委は、そうした慣行の是正を進め、時には違反企業を摘発することもあった。これらを含めて、財閥改革において一定程度の成果があったとは言える。

その他に大きな変化として指摘できるのは、国民年金公団(NPS)が財閥企業の大株主であることの権利を行使して財閥改革を迫ったことだ。NPSの最高意思決定機関は保健福祉省の管轄下にあり、かつ政治的な独立性が低いため政府の意思を通しやすい。

実際、大韓航空の趙亮鎬(チョ・ヤンホ)会長が株主総会で取締役の再任を否決される事態が起きた。こうした、議決権を行使した形での関与がインパクトは大きく、文政権が今後もこの手を使う可能性はある。

――文政権発足後から話題が南北融和に集まったこともあり、財閥に対する関心が薄れた印象もある。財閥改革に対する世論の反応をどう見ているか?
国民も、財閥を崩壊させればいいとは思ってはいない。財閥のオーナー(の横柄な振舞いなど)に対する批判はあっても、それは財閥の存在自体への批判とは違う。財閥に対して、国民のなかでは愛憎半ばする思いがある。不満がある一方、韓国経済が成長するための大きな推進役であったことを疑う国民は少ない。

ただ、政権やその支持層の中には頑な財閥批判者がいる。彼らのなかには、文政権の財閥改革は財閥と融和的ではないか、との視線を注いでいた時期もあった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ワールド

ロ凍結資金30億ユーロ、投資家に分配計画 ユーロク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中