最新記事

病害

バナナ絶滅の懸念...世界で猛威をふるう「新パナマ病」、ついに南米に

2019年8月29日(木)16時30分
松岡由希子

「新パナマ病」感染防止の消毒をするニカラグアの農民、2017年 Oswaldo Rivas-REUTERS

<バナナの病害「新パナマ病」を引き起こす真菌が、南米ではじめてTR4が確認された......>

バナナの病害「新パナマ病」を引き起こすフザリウム属の真菌TR4が南米コロンビアで確認され、コロンビア農牧院(ICA)は、2019年8月8日、非常事態宣言を発令した。南米でTR4が確認された事例はこれが初となる。

台湾や中国、東南アジア、中東で甚大な損害をもたらしてきた

新パナマ病とは、土壌伝染性の植物病原糸状菌であるTR4が根から侵入して導管を通して広がり、維管束を破壊して立ち枯れを起こすバナナの病気だ。バナナの品種の中で最も生産量が多い「キャベンディッシュ」に感染し、台湾や中国、東南アジア、中東などでバナナ栽培に甚大な損害をもたらしてきた。

新パナマ病に感染したバナナを食べても人体に害はなく、TR4がヒトに感染することもないが、この病気への効果的な防除方法はいまだ確立されておらず、このまま世界的に感染が広がれば、キャベンディッシュが絶滅するおそれも懸念されている

コロンビア農牧院では、コロンビア北部ラ・グアヒーラ県で生育中のバナナに立ち枯れの症状がみられたことから、6月11日以降、詳細な調査をすすめるとともに、国内4カ所のバナナ農園で検疫を実施するなど、必要な措置を講じてきた。8月5日には、バナナを輸出する主要15カ国の農業大臣がエクアドルの首都キトで会談し、感染防止に向けた対策について協議している。

コロンビアで非常事態宣言を発令

オランダのワーヘニンゲン大学とバイオテクノロジー企業「キージーン」は、コロンビア農牧院からの依頼により、新パナマ病に感染したとみられるバナナのサンプルについてゲノム配列検査や分子診断に基づく確認試験を行い、8月7日、「ラ・グアヒーラ県の175ヘクタールのバナナ畑にTR4が存在する」との結果を通知した。

この結果を受け、コロンビア農牧院は、翌8日、全土にわたって植物検疫を強化・拡大するべく、非常事態宣言を発令。現時点でTR4の感染が確認されているのはラ・グアヒーラ県のみにとどまっているが、他地域への感染リスク軽減に向けた措置を講じるほか、中小規模のバナナ農家を対象に、感染防止対策のための補助金も検討していく方針だ。

コロンビアは、世界有数のバナナ輸出国であり、2018年には、8億6870万ドル(約924 億6300万円)に相当する202万8000トンのバナナを欧米に輸出している。TR4の"上陸"が確認されたことで、今後、コロンビアのバナナ産業に大きな影響がありそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中