最新記事

カシミール紛争

「自治権はく奪」でインド化強行のモディ政権と戦うカシミールの若者

2019年8月26日(月)17時50分

衝突が日常に

スリナガルでは4人以上が参加する集会が禁止され、移動を妨げるためにバリケードが数十カ所設置された。政治家や地域の指導者、活動家ら500人以上が拘束された。

インターネットや携帯電話の接続は、スリナガル市とカシミール渓谷の全域で2週間以上停止しており、政府の決定に反対する人たちが抗議活動を組織するのが困難になっている。

固定電話は復旧し始めたが、スーラ地区では停止したままだ。

住民たちは、他の方法で組織化を試みている。地区に侵入しようとする治安部隊を発見すれば、モスクに急行してスピーカーで「不法占拠への抵抗」を促す歌を放送したり、警報を鳴らしたりしているという。

8月9日には、金曜日の礼拝を終えた人々が道を占拠して抗議活動を行った。周辺地区からも住人が集まり、地元の警察関係者によると、群衆は少なくとも1万人に膨らんだ。

複数の住民によると、この抗議活動の後、暴徒鎮圧用の装備を身に着けた治安部隊150-200人がスーラ地区への侵入を試み、住民との衝突が深夜まで続いたという。警察側は催涙ガスや空気銃を発射したという。

それ以降、スーラ地区では小規模なデモ活動や、治安部隊との小競り合いが続いていると、住民たちは言う。当局側は、地区内の集会場所となっている礼拝所脇の空き地を封鎖しようとしているとみられ、同地区への侵入を数回試みているという。

「毎日のように攻撃を仕掛けてくるが、反撃している」と、20歳台前半のオワイスと名乗る青年は話す。「まるで閉じ込められたかのようだ」

インドの武装警察は、同地区を掌握する構えだ。「(同地区に)入ろうとしているが、地域の抵抗が大きい」と、スリナガルの武装警察関係者は話した。

別の治安当局者はロイターに対し、「地区の若者の一部は過激化している」とした上で、「武装勢力の温床になっている」と述べた。

ドローンとヘリコプター

インドからの分離を求めるカシミールの抗争で、インド政府はこの30年で5万人が死亡したとしているが、人権活動家は死者数はこれよりもずっと多いと主張している。多くのカシミールの住人は、独立か、イスラム教徒が多数を占めるパキスタンへの併合を望んでいる。

インドへの反政府活動は、歴史的にパキスタンから越境してくる武装勢力が指揮することが多かった。だが近年では、自ら武器を手にするカシミールの住民も増えている。

スーラ地区の壁や電柱には、武装勢力のポスターが多数貼られている。その中には、カシミールの分離独立を主張する武装組織「ヒズブル・ムジャヒディン」の指導者で、2016年に治安部隊に殺害されたブルハン・ワニ司令官のポスターもある。

インドのメディアは、スーラ地区の衝突についてほとんど報じていない。通信が遮断されたせいもあるが、インドのテレビ局や新聞は、今回の決定に対してカシミールではほとんど抵抗が起きていないとする政府の見解をそのまま報じてきたからでもある。

スーラ地区の現実は異なる。

治安当局による取り締まりを恐れて、特産の高級カーペットやスカーフを売る店の中には閉じたところもある。地区内の湖では漁やハスの栽培が続いているものの、地区の外へ収穫品を輸送するのは困難だという。

厳戒態勢の中で、人々の移動も制限されている。スーラ地区から外に通じる全ての道に武装警察が立ち、地区上空には監視用ドローンやヘリコプターが飛ぶ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

ゼレンスキー氏、和平巡る進展に期待 28日にトラン

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中