最新記事

日韓対立

燃え上がる日韓対立、安倍の「圧力外交」は初心者レベル

Japan Started a War It Wasn’t Ready to Fight

2019年8月8日(木)17時55分
ウィリアム・スポサト

日本が韓国をホワイト国から除外したことに怒る韓国人の反日デモ(8月3日、ソウル) Kim Hong-Ji-REUTERS

<米FP特約=戦後、地政学的な「お人好し」と言われてきた経済第一の日本の外交方針を、安倍は貿易を政治の武器にするトランプ流に変えたようだ。ただし、まだまだ未熟なために問題を悪化させている>

激しさを増す日韓の経済対立は、不安定な世界経済にとって厄介な問題というだけでなく、日本が外交のやり方を変えつつあることも示唆している。日本は戦後、地政学的な「お人好し」と見られてきた。論争が起こると、経済とビジネス上の利益を最優先し、政治的には譲歩を促すことで解決を図ってきた。だが安倍晋三首相は、それを変えようとしているようにみえる。ただし、新しい方法にはまだまだ不慣れのようだ。

<参考記事>輸出規制への「期待」に垣間見る日韓関係の「現住所」

今回の日韓対立の発端は、日本政府が下した、少なくとも表向きはテクニカルな2つの判断だった。日本政府は7月4日、3種類の半導体材料について、韓国への輸出審査を厳格化する措置を取った。これらの材料は、サムスン電子やSKハイニックスなど韓国の半導体大手が主に日本から調達してきた。

韓国はこれに対して、電子製品のサプライチェーンに混乱をもたらす恐れがあると抗議。だが日本政府はさらに8月2日、韓国をいわゆる「ホワイト国」のリストから除外することを閣議決定した。ホワイト国とは、大量破壊兵器などに転用されるおそれのある戦略物資について適切な管理を行っていると見なされ、手続き上優遇されている27カ国を指す。

<参考記事>韓国・文在寅大統領は日本との関係には無関心?

韓国はWTOに提訴も

韓国はこれらの戦略物資について、第三国への横流しを防ぐための適切な対策を取っていないと、日本政府は繰り返し主張してきた。複数のメディアが実際に北朝鮮に流れた可能性を報じているが、情報筋は中東に流れた可能性を指摘している。日本政府はまた、この問題について少なくとも数カ月前から韓国側に対話を申し入れてきたものの、そのたびに拒絶されたと怒りを込めて主張した。

韓国政府はこれを否定し、日本政府のやり方を強く非難。この問題を、対北朝鮮制裁の監督を行っている国連に持ち込む計画のほか、WTO(世界貿易機関)の規範にも背いているとして、WTOへの提訴の準備を進めると強調している。市民レベルでも、日本製品の不買運動や日本旅行のキャンセルなどの日本ボイコット運動が広がっている。

<参考記事>日本政府、韓国をホワイト国から除外 文在寅「今後の展開はすべて日本の責任」

一連の問題の背景には、第2次世界大戦中に日本企業が韓国人を強制的に動員して重労働に従事させたといういわゆる徴用工問題で、韓国に圧力をかけたい日本側の思惑がある。事の発端は2018年10月、韓国大法院(最高裁)が、日本企業に元徴用工への損害賠償支払いを命じたこと。日韓が1965年の国交正常化に際して日韓請求権協定を結び、韓国に5億ドルの経済支援を行ったことで、この問題は既に解決済み、というのが日本側の認識だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=

ワールド

EU、27年までのロシア産ガス輸入全面停止へ前進 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的、と元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中