最新記事

事件

京都・ラオス・ベトナム......襲われたタイ反政府活動家 微笑みの国もう一つの顔

2019年8月6日(火)14時15分
大塚智彦 (フリーランス)

京都で襲われたタイ人反体制活動家のパビン・チャチャバルポンプン氏 facebookページから

<反体制活動家が就寝時に何者かに襲われる──。遠く離れた国で起きるような事件が日本の古都、京都で発生した。だが、これは世界各国で起きている事件のひとつに過ぎないという>

2019年3月に実施された民政移管選挙で軍政の指導者だったプラユット首相の続投が決ったタイで、このところ反軍政、反王政の活動家たちが殺害されたり、襲撃されたりする不可解な事件が相次いでいる。

人権団体などはタイ治安当局の関与を強く示唆して公正な捜査を求めているが、タイ当局は関与を否定して捜査にも積極的に動こうとしていない。「微笑みの国」と称されたタイで今何が起きているのか。

7月8日、京都大学で准教授を務めるタイ人のパビン・チャチャバルポンプン氏が日本国内の自宅で就寝中にタイ人とおぼしき男2人に襲われ、化学薬品と思わる液体をかけられやけどを負う事件が起きた。パビン氏はタイで起きた2006年、2014年の軍によるクーデターや王政への批判を繰り返し、タイ本国での身の危険を感じて日本に活動拠点を移していた。

ロイター通信によると、日本の警察はタイ人が犯行に関与している可能性があるとして捜査を続けているという。

タイ国内外で続く反体制派への襲撃

一方、タイ地元各紙の報道によると6月28日、バンコク市内で人権活動家のシラウィット・セリティワット氏が正体不明の4人組に襲撃され、棒などで頭部、顔面を殴られて鼻の骨を骨折、重傷を負う事件が起きた。

また同じく活動家のエカチャイ・ホンカンワン氏は4月に車が放火されたほか、2018年から計7回も暴行を受けていたことが明らかになっている。

こうした人権活動家や言論人は、タイではタブー視され、批判することが許されていない国王や王政への批判を繰り返し、さらに軍による強権支配が反民主的であると訴えてきたという共通点がある。一連の事件について当局の陰謀説がささやかれるのは、「王室や政府批判が国家の安定を損なう」とする軍政や治安当局の思惑と一致しているからだ。

人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」などによると、2018年12月27、29日に相次いでタイ東北部のラオス国境を流れるメコン川で男性2人の遺体が発見された。2遺体とも顔面が激しく損傷し、内臓を取り出してコンクリート塊が詰め込まれており、身元確認が困難な状況だったという。

だが、その後の捜査当局による遺体のDNA鑑定などの結果、2019年1月に男性2人の身元がグライデート・ルールート氏(46)とチャチャル・ブッパクン氏(56)であることが判明し、内外で活動を続けるタイ反体制活動家の間に震撼が走った。

というのもグライデート、チャチャル両氏はスラチャイ・セーダーン氏(78)とともに2014年の軍によるクーデター後にラオスに事実上亡命してラオス国内からインターネットなどを通じて反体制活動を続けていた民主化運動の活動家で3人とも2018年12月12日以来、ラオスで行方不明となっていたからだ。残るスラチャイ氏は依然として行方不明のままで、安否が気遣われている。

ラオス在住のタイ人活動家はこの3人のほかにすでに5人が消息を絶っており、HRWなどが情報収集を続けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感指数、2月は91.2に上昇 雇用

ワールド

ウクライナ大統領「独立守った」、ロ侵攻から4年 G

ワールド

米、重要鉱物価格設定にAI活用検討 国防総省開発

ビジネス

AIが雇用市場を完全に覆すことはない=ウォラーFR
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 6
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 7
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 8
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 9
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 10
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中