最新記事

日韓関係

日本と韓国が共に見習った中国の悪しき外交術

2019年8月5日(月)11時55分
マーセデス・トレント(全米科学者連盟リサーチアシスタント)

溝を埋められない日韓外相(2018年5月) Kazuhiro Noci-Pool-Reuters

<輸出の制限やボイコット運動は中国の常套手段。両国がこの戦術を実践して日韓関係は泥沼になっている>

国の経済力が外交の武器として使われるようになって久しい。中国はこの20年間、強大な経済力を外交的な圧力の手段に用いてきた。最近は中国だけでなく、同様の手法が北東アジア全体に広がり、地域情勢を不安定化させている。

7月4日、日本政府は韓国への半導体材料3品目の輸出管理強化に踏み切った。それらの物資が韓国から北朝鮮に転売されている懸念があるからだと、日本政府は説明している。半導体は韓国にとって極めて重要な輸出品だ。日本の措置は韓国経済に大打撃を与えかねない。

韓国政府は日本政府を激しく非難。韓国国民の間でも、ソーシャルメディアを中心に、日本製品や日本旅行をボイコットする運動が広がっている。

さらに日本政府は8月2日、多数の先端技術物資について簡素な輸出手続きを認める「ホワイト国」のリストから韓国を除外することを決定。すると、韓国政府も直ちに日本をホワイト国から除外する方針を示した。

現在、日本政府と韓国国民が相手に対して取っている行動は、両国が過去に中国から受けた仕打ちそのものに見える。

韓国国民が日本を標的に展開しているようなボイコット運動は、中国がたびたび用いてきた手法だ。2017年、韓国への米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に反発した中国国民が韓国製品のボイコット運動を展開。路上で韓国製品を壊す様子を撮影した動画をインターネットに投稿したりもした。韓国を訪れる中国人旅行者も激減した。

日韓対立は中国の思う壺

2012年には、中国が領有権を主張する尖閣諸島(中国名・釣魚諸島)を日本政府が国有化したことに反発し、中国で日本製品のボイコット運動が起きている(中国政府がどの程度たき付けたのかは明らかでない)。

日本政府が韓国に対して取ったのと同様の措置も、中国は過去に取っている。2010年、尖閣諸島付近で海上保安庁の巡視船と衝突した中国籍漁船の船長が逮捕された後、中国は日本へのレアアースの輸出を停止した。当時、日本は重要な工業製品をつくるために中国産のレアアースに大きく依存していた。

今回、日本と韓国が互いに経済的圧力をかける戦術を取り始めたことで、新たな相互不信が生まれつつある。両国が昔から緊張関係にあったことは確かだが、世論調査によれば相互の信頼感は回復傾向にあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中