最新記事

日韓関係

「中露朝」のシナリオに乗った韓国のGSOMIA破棄

2019年8月26日(月)16時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

日韓決裂 REUTERS/Kim Kyung-Hoon/Pool

韓国のGSOMIA破棄は、習近平を中心とした「中露朝」のシナリオ通りに動いている。竹島上空での中露合同軍事演習、米韓合同軍事演習による金正恩の激怒、トランプのINF離脱。待つは日韓の決定的な関係悪化だった。

中露軍事演習は日米韓協力のゆるみ度を図るリトマス試験紙

韓国が主張する防空識別圏内に入るとする(日本の領土である)竹島上空で、7月23日に中露の戦略爆撃機と早期警戒機が飛行した。韓国軍用機は韓国の領空を侵犯したとして警告射撃をしたが、菅官房長官は「竹島の領有権に関するわが国の立場に照らして到底受け入れられず、極めて遺憾であり、韓国に対し強く抗議するとともに再発防止を求めた」と語っている。

中露は、これはあくまでも「中露の包括的な戦略的パートナーシップを強化するための中露合同軍事演習の一環に過ぎない」と反発。特に中国は2017年の第19回党大会で党規約に「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を書き入れてからというもの、何にでも「新時代」を付け、この軍事演習を「新時代の中露間の包括的な戦略的パートナーシップである」として、今後も常態化するだろうと述べている。

その翌日の7月24日に中国は「新時代の中国国防」白書を発表し、同様に中露の戦略的パートナーシップを強調している。

それならなぜ中露はわざわざ「竹島」上空を狙ったかと言えば、それは明らかに日韓関係の悪化によって、どれくらい日米韓の協力関係に「ゆるみ」が出ているかを試すためのリトマス試験紙の役割を果たしたと言えよう。

6月に習近平国家主席が訪露し、プーチン大統領と会った時には、日韓関係はすでに徴用工問題の韓国最高裁判決に対して非常に険悪化していた。7月1日には半導体材料に関する輸出審査を厳格化すると日本は韓国に言い渡し、日韓関係はさらに悪化の一途をたどっていた。

米中貿易摩擦でアメリカと対立している中国と、2月にアメリカから中距離核戦力全廃条約(INF=Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)からの離脱を正式通告されていたロシアは、今やアメリカを軍事的にも共通の強烈な敵としている。

中露は新しい東アジアのパワーバランスを求めて、何とか韓国を「日米韓」の軍事的協力体制から引き離したいと企んでいた。

そのために中露両軍は韓国が不当にも韓国領土と主張する日本の領土である「竹島」を狙ったのである。

案の定、菅官房長官は「韓国に対する抗議」を表明してくれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ワールド

米中外相が対面で初会談、「建設的」とルビオ氏 解決

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙

ビジネス

ECB、ディスインフレ傾向強まれば金融緩和継続を=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中