最新記事

日韓関係

「中露朝」のシナリオに乗った韓国のGSOMIA破棄

2019年8月26日(月)16時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

これで第一段階の中露の作戦は成功している。

米韓合同軍事演習に激怒した金正恩委員長

四面楚歌となりつつあった韓国の文在寅政権は、「それでもアメリカにだけは見放されまい」として、この期に及んで(8月5日)米韓合同軍事演習に踏み切った。武力を伴わないシミュレーションであるとはいえ、北朝鮮の金正恩委員長は激怒。トランプ大統領にではなく、文在寅に対して「二度と同じテーブルに就くことはない」と言い放ち、怒りを全開にした。

うろたえたのは文在寅だろう。

何せ彼にとっての唯一の自慢は南北融和のために金正恩と会い、トランプとの仲介をしたことだと、きっと思っているだろうから。また、日本に対抗して「北朝鮮と一体となって経済発展をさせるから、今に韓国の経済は日本を追い抜く」と豪語していた文在寅は、その意味においても立場を無くしてしまった。

日韓のGSOMIA(ジーソミア。軍事情報包括保護協定)は主として北朝鮮(や中国)の軍事動向をいち早くキャッチして情報を日韓の間で共有するのが目的だ。北朝鮮は早くからGSOMIAに抗議し、韓国に破棄を迫っていた。

破棄を迫っているのは中国も同じである。

「お前はどっちの味方なのだ」と北からも中国からも言われて、文在寅はいよいよ四面楚歌なのであった。

決定打は日中韓外相会談――ポストINF中距離弾道ミサイル

決定打は8月20日に北京で行われた日中韓の外相会談だった。

アメリカはロシアとのINFから脱退し、その補強としてアメリカの中距離弾道ミサイルを、韓国をはじめとした東アジア諸国に配備しようとしているが、中韓両外相の会談において、中国側は韓国に強く反対の意思を伝えたという。韓国側は韓国に配備する可能性を再度否定したので、中韓の距離が縮まった。その上でのGSOMIAの破棄なのである。

1987年に当時のソ連とアメリカとの間で結ばれたINFには、中国は入っていない。それを良いことに中国は東風-21(DF-21)(射程距離2150~3000キロ)や東風-26(DF-26)(射程距離4000キロ)などの中距離弾道ミサイルの開発に余念がなかった。

中国の中央テレビ局CCTVも中国の軍事力がどれほど高まっているかを誇らしく報道しまくってきた。したがってアメリカとしてはINFから離脱して、さらなる高性能な中距離弾道ミサイルを製造してそれを韓国などに配備し、中国を抑え込んで、新しい東北アジアのパワーバランスを形成しようとしている。

もし韓国がアメリカの指示に従ってポストINF中距離弾道ミサイルなどを配備しようものなら、中国の韓国への怒りはTHAAD(サード。終末高高度防衛ミサイル)を韓国に配備した時のような経済報復では済まず、中韓国交断絶にまで行くだろうと、中国政府の元高官は筆者に教えてくれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中