最新記事

日韓関係

「中露朝」のシナリオに乗った韓国のGSOMIA破棄

2019年8月26日(月)16時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

中国は、高度で重要な戦略であればあるほど表面に出さないので、日本ではここまでの事態が進んでいると思っている人は多くないと思うが、これが実態だ。

アメリカのエスパー国防長官が8月2日からオーストラリアや日本、韓国など東アジア5ヵ国を歴訪したのだが、これに関して中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」は「オーストラリアもポストINFの中距離弾道ミサイル配備を断ったが、韓国も断っている」と、まるで「勝ち誇った」ように報道している。この報道から中国の心の一端を窺い知ることができよう。この時点で韓国の国防関係のスポークスマンは「韓国はポストINFに関してアメリカから頼まれてもいないし、論議もしてない。もちろん受け入れるつもりはない」と言っているが、それでも信用できずに、中国側は韓国の康京和外相に、8月20日の韓中外相会談の際に最後のダメ押しをしている。これに関しては、韓国の一部メディアが報道しているが、筆者はインサイダー情報として知るところとなった。

東アジアの新しいパワーバランスは、このようにして激しい闘いを展開していたのである。

韓国のGSOMIA破棄宣言で反応した「中露朝」

韓国がGSOMIA破棄を発表したのは8月22日だが、その直後に何が起きたかを見てみよう。

まず中国:8月23日にアメリカの対中制裁関税「第4弾」への報復措置として約750億ドル分(約8兆円)のアメリカ製品に5~10%の追加関税をかけることを決定した。

次にロシア:8月24日、北極圏に近いバレンツ海から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「シネワ」と「ブラワ」の発射実験を行い、成功したと発表した。

そして北朝鮮:8月24日、短距離弾道ミサイル2発を発射した。

このように「中露朝」ともに、韓国がGSOMIAを破棄した瞬間に「もう大丈夫」とばかりに、まるで示し合わせたように、アメリカに対して挑戦的な行動に出たのである。

特に、この最後の北朝鮮のミサイル発射に関して日本の関心は、「日本と韓国のどちらが先に情報をキャッチしたか」ということに集中し、いま日本を取り巻く状況がどのように変化しているのか、どのような恐るべき事態が進んでいるのかに関しての関心は薄い。

そのことの方がよほど危険だ。

筆者は7月3日付のコラム「中露朝が追い込んだトランプ電撃訪朝」で、「中露朝」が早くから組んでいることを警告してきたが、それを本気にする日本人は多くはなかったように思う。

日本の国益のために、より多くの日本人が、もっとグローバルな視点で日本を考察してほしいと願わずにはいられない。

(なお本稿は中国問題グローバル研究所のウェブサイトからの転載である。)

この筆者の記事一覧はこちら≫

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 5
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中