最新記事

中東

「原油密輸タンカーを拿捕した」イランの2つの狙い

2019年7月22日(月)16時45分
トム・オコナー

イランが7月19日に拿捕したイギリス船籍のタンカー(手前はイラン革命防衛隊のボート) Mizan News Agency/WANA Handout via REUTER

<エスカレートするアメリカの対イラン制裁と軍事的圧力を受けて防衛強化を叫ぶイラン。革命防衛隊の外国籍タンカー拿捕には2つの目的が>

原油を密輸しようとしていたタンカー1隻を拿捕した──ペルシャ湾のホルムズ海峡付近でイランとアメリカとの緊張が高まるなか、イラン革命防衛隊は7月18日にこう発表した。

革命防衛隊は「100万リットルの原油密輸に使われていた外国籍の小型船」をホルムズ海峡のララク島沖で拿捕し、乗員12人を逮捕したという。船籍や乗員の国籍は発表されていないが、テレビ映像では消息を絶っていたパナマ船籍のタンカーと同名の「リア」と書かれた船体が映し出された。

アメリカからの制裁と軍事的圧力の高まりを受け、革命防衛隊はペルシャ湾の防衛を強化すると繰り返し叫んでいる。イラン経済に詳しいニュースサイト「ボーアス&バザー」創設者のエスファンディヤール・バトマンゲリジは、今回の拿捕にはイラン国内と国外向けの2つの狙いがあると指摘する。

「国民に対しては、革命防衛隊が強硬姿勢で原油密輸と戦うというメッセージを送ることができる。国際社会に向けては、イランの軍事力を見せつけられる」と、バトマンゲリジは言う。「船籍もおぼつかない小型船を、密輸取り締まり名目で拿捕することで、彼らは安全保障上の危機を引き起こすことなしに力を誇示しようとしているようだ」

緊迫のペルシャ湾で石油タンカーの航行の安全を確保することは、国際社会の最大の関心事になっている。世界海洋研究所のロックフォード・ワイツ所長は「世界をこれほど結束させる状況はほかにない」にもかかわらず、主要国間に大きな亀裂があると指摘する。

「イラン核合意からのアメリカの離脱が地域の不安定化を招き、米外交が攻勢に出ていることは疑いようもない」と、ワイツは言う。一方で、核合意当事国の英仏独は、対話再開の道を探るべきだと訴え続けている。

<2019年7月30日号掲載>

20190730issue_cover200.jpg
※7月30日号(7月23日発売)は、「ファクトチェック文在寅」特集。日本が大嫌い? 学生運動上がりの頭でっかち? 日本に強硬な韓国世論が頼り? 日本と対峙して韓国経済を窮地に追い込むリベラル派大統領の知られざる経歴と思考回路に迫ります。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、エヌビディアAI半導体の中国販売認可を

ワールド

習氏、台湾問題で立場明確に トランプ氏と電話会談=

ビジネス

EU、AIの波乗り遅れで将来にリスク ECB総裁が

ワールド

英文化相、テレグラフの早期売却目指す デイリー・メ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中