最新記事

ドイツ政治

ドイツ大政党を揺るがすユーチューバーの乱

German Politics Discovers YouTube

2019年7月5日(金)15時30分
ペーター・クラス

レゾの動画の閲覧回数は1500万回を超えた PHOTO ILLUSTRATION BY SEAN GALLUP/GETTY IMAGES

<かつて最強を誇った「メルケルの党」がたった1本の動画に慌てふためいた理由>

ドイツで5月26日に行われた欧州議会選挙の約1週間前、青く髪を染めた若い男が「CDUの破壊」というタイトルの動画をインターネットにアップした。文字どおり、与党・キリスト教民主同盟(CDU)による過去14年間の「破壊行為」を誇張気味に糾弾する内容だった。

ネット上で「レゾ」と名乗る若者の正体は、26歳の映像プロデューサー。ミュージシャン、エンターテイナーとして人気を集め、メインの YouTube チャンネルには160万以上のフォロワーがいる。

この政治色の強い動画は、実際にCDUが欧州議会選で不振だったこともあり、かつてはアンゲラ・メルケル首相の下で無敵に見えた「最強の党」を動揺させた。そして、ドイツ国民の間に同党の未来に対する疑念を呼び起こすことになった。

長年ドイツ政界を支配してきた中道右派のCDUは、特に若い有権者の間で支持の低下が目立つ。もっと右に路線を修正して出血を止めようとしたが、支持率低下に歯止めがかからない。一方でメディア戦略はほとんど変わらないまま。レゾの動画は同党のコミュニケーション能力の低さを浮き彫りにした。

動画では3つのポイントを挙げてCDU糾弾する。まず、CDUの政策は所得格差の拡大と社会的流動性の減少の原因になっていると、レゾは主張する。第2に、ドイツ南西部のラムシュタイン空軍基地を中東での戦争の中継地にするアメリカに抵抗しなかったCDUと、連立を組む中道左派の社会民主党(SPD)は、どちらも戦争犯罪の共犯だと非難する。そして何より、保守的で無能で腐敗した政治が地球温暖化対策の障害になっているという第3の主張だ。

ポストメルケルが炎上

若者の間で人気のスラングを巧みに操るレゾの語り口も相まって、動画は爆発的な人気を集め、アップから4日で閲覧回数300万を突破。6月下旬時点で1500万回を超えている。

南ドイツ新聞によると、CDUはこれに対抗する動画を用意したが、その後公開を中止。代わりにPDF文書の形で反論をネット上に投稿することにした。

レゾはさらに追い打ちをかけた。投票2日前、YouTubeで大きな影響力を持つ約90人の「インフルエンサー」と共に動画を作成。連立政権はドイツを破滅的な気候変動へと導いていると強調し、事態の緊急性を思い知らせるためにもCDUに投票してはいけないと訴えた。

欧州議会選でCDUの得票率が前回比で7ポイント低下すると、政治評論家は早速「レゾ効果」を指摘した。本人は選挙への影響を否定したが、CDU指導部の見方は違っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

ロシア黒海主要港にウクライナ攻撃、石油輸出停止 世

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

中国、日本への渡航自粛呼びかけ 高市首相の台湾巡る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中