最新記事

英政治

独走ジョンソンは英首相の器なのか

The Last Tory Prime Minister?

2019年6月26日(水)17時40分
オーエン・マシューズ

離脱を支持する大勢の怒れる有権者が保守党を見限り、争点をEU離脱だけに絞ったブレグジット党の支持に回るという事態も招いた。5月下旬の欧州議会選挙では、ブレグジット党が得票率30.7%で首位を獲得。保守党はわずか8.8%で、前例のない5位に甘んじた。

今回の党首選には、強硬離脱派の脅威に対処する姿勢が色濃く見て取れる。16年の国民投票では残留の立場を取った保守党だが、今回はほぼ全ての候補が過激な反EU姿勢を訴えた。ジョンソンもスイスでの経済会議で「(イギリスは)合意の有無にかかわらず、10月31日にEUを離脱する」と発言した。

懸念される党の大分裂

「合意なき離脱」と聞けば、多くの英企業は震え上がる。だがジョンソンが頼る草の根の保守党員には、ブレグジットへの強硬姿勢が大きくアピールする。

最近の調査によれば約16万人の保守党員の内訳は、97%が白人、71%が男性、そして大半が富裕層。今の多様なイギリスを代表する集団ではない。その中でジョンソンを支持するのは離脱最強硬派だ。「合意なき離脱」を支持する党員はジョンソン支持者では85%。党員全体では66%、有権者全体では25%だ。

先頃ジョンソンはBBCのインタビューで、ブレグジット後もイギリスとEU間の物やサービス、人の流れは続け、取り締まりは「販売時点」で行えばいいと述べた。この発言にEU側は当惑したに違いない。「合意なき離脱」ならイギリスは国境開放の恩恵を受けられないと、EUは明らかにしていた。

さらにEUは、先にメイに示した協定案について再交渉はあり得ないと繰り返し表明してきた。しかも新しい欧州委員会の顔触れが決まるのは10月で、離脱期限まで数週間しかない。メイは交渉に3年かけても、らちが明かなかったのだが。党内には、「合意なき離脱」も辞さないジョンソンの無謀な姿勢が議会との対決を招き、総選挙での大敗につながるという危惧もある。

最近の世論調査では、総選挙ならブレグジット党に投票するという人が24%いる。次いで保守党と労働党が支持率21%で並び、自由民主党が19%で続く。

「(ジョンソンは)ブレグジットには保守党の存亡が懸かっていると語ったが、最悪の事態は党が分裂することだ」と、元側近は言う。党内の離脱派はブレグジット党に駆け込み、残留支持派は自由民主党にくら替えするという事態だ。

総選挙の勝利が見えない

マット・ハンコック保健・社会福祉相は党首選から撤退した直後に、いま求められているのは「未来のための候補」ではなく「現在の特異な状況を収拾する候補」だと語った。確かにジョンソンなら、約束の3月を逃した屈辱を和らげられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円・ユーロで週間上昇へ 貿易

ビジネス

米国株式市場=米中協議控え小動き、トランプ氏の関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中