最新記事

英政治

独走ジョンソンは英首相の器なのか

The Last Tory Prime Minister?

2019年6月26日(水)17時40分
オーエン・マシューズ

党首選候補者のテレビ討論会に参加したジョンソン(6月18日) JEFF OVERSーBBCーREUTERS

<保守党党首選でトップを走る前外相はイギリス政界でも類を見ない型破り男――当選すれば「保守党最後の首相」になるかもしれない>

ぼさぼさ頭の元ジャーナリストが、気が付けばイギリスで最も顔を知られ、最も物議を醸す政治家になっていた。辞任を表明したテリーザ・メイ首相の後任争いで、ボリス・ジョンソン前外相はトップを独走中だ。

保守党党首選でジョンソンは、10人の候補者を2人に絞り込む313人の党所属下院議員による投票で首位に立った。5回目の議員投票で160票と過半数の票を獲得し、次点のジェレミー・ハント外相の77票を大きく上回った。2候補の決選投票は約16万人の党員によって行われ、7月下旬に新党首が決まる。

これまでの世論調査でジョンソンは、将来の総選挙で誰よりも支持を得られそうな指導者になると評価されてきた。08年には労働党支持者の多いロンドンで市長選に勝ち、「他政党の支持者にもアピールできる保守党員」という評判を手にした。ジョンソンは「有権者を笑顔にできるイギリスで唯一の政治家」だと、彼の親友は言う。

その型破りな人柄や軽妙な話術から、ジョンソンはカリスマ的人気を得ている。名門イートン校からオックスフォード大学に進んだという学歴を持ちながら、憎めないお調子者を演じているところも人気の理由だ。

だがジョンソンが保守党党首に、つまり首相になるという見通しが高まったことは、イギリスのエリート層にとって悪夢に近い。イギリスの公人で「あれほど嫌われている人間」は見当たらないと、彼の友人も認める。

私生活はお世辞にも品行方正とは言えず、妻以外の女性との間に子供が少なくとも1人いる。誠実さに疑問符を付ける見方も多く、ウィンストン・チャーチルやマーガレット・サッチャーの党のトップに座るには道徳的に問題があるとも言われる。

ジョンソンのデイリー・テレグラフ紙記者時代に上司だったマックス・ヘイスティングズは12年、彼を散々にこき下ろした。

「ボリスのうぬぼれの強さは金メダル級だ」と、ヘイスティングズは書いた。「一般の人が思うより、はるかに冷酷で嫌な男だ。類を見ないほどの目立ちたがり屋で、分別、思慮、忠誠心といったものとは全く縁遠い」

伝統を重んじ、政治的な冒険をしない保守党で、ジョンソンのような人物が党首になる可能性は本来ならゼロに近い。しかしブレグジット(イギリスのEU離脱)をめぐる混乱は、保守党の品格だけでなく、政治的な慎重さも揺さぶったようだ。イギリスは当初期限の3月29日までにEU離脱を実行できず、屈辱的だが期限の半年延長をEUに要請した。これによってメイの首相としてのキャリアは終わり、政界に激変を招いた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀「地ならし」で国債市場不安定化、入札

ワールド

EXCLUSIVE-中国のレアアース輸出、新規ライ

ビジネス

野村HD、成長フェーズ入りに手応え 2030年目標

ビジネス

英中銀、銀行の自己資本比率要件を1%引き下げ 経済
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 4
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中