最新記事

スペースX

夜空を「汚染」するスターリンク衛星の光害問題

2019年6月4日(火)15時30分
秋山文野

天文学者も予測は難しかった

光害とは、地上の人為的な照明(街灯や照明付き看板、商業施設の夜間照明など)によって夜間でも地上が明るくなりすぎて天文観測を阻害したり、人体に影響を与える問題を指してきた。人工照明から出る光が夜空を明るくしてしまい、天文観測に悪影響が生じる。スターリンクトレインは、光害が人工衛星でも起きることを再認識させた。光害問題の啓発を行っている国際ダークスカイ協会(IDA)は、「新たな大規模衛星群を開発する前に、夜間の環境が変化しないように保護する予防的措置を講じるべき」とのコメントを発表した。

スターリンク衛星がこれほどまでに天文学者の懸念材料になると予測することは、難しかったと思われる。人工衛星は自ら発光しているわけではなく太陽の光を反射して明るく見えるため、明るさは衛星の大きさや太陽電池パドルの形状、姿勢などによって大きく変わる。畳のような形状のスターリンク衛星本体や太陽電池の開き方などの情報が公開されたのは、打ち上げ直前の5月中旬になってからだった。天文学者も衛星がこれほど明るく見えることがわかってから対応せざるを得なかったのだ。

akiyama0604a.jpgロケットから分離前のスターリンク衛星 Credit: SPACEX

宇宙望遠鏡で解決すればよい、とイーロン・マスク

スペースXのイーロン・マスクCEOもこの問題を認識しており、対策として「重要な天文観測が行われている間、太陽光の反射を最小限にするために衛星の姿勢の調整が必要なら、これは簡単にできる」とツイートした。スターリンク衛星の管制業務を行うソフトウェアを改修し、姿勢を調節しながら軌道を周回することが可能といった意味だと推測される。


とはいえ、「とにかく望遠鏡を軌道上に持っていく必要がある。大気の減衰がひどいから」と宇宙望遠鏡で解決すればよいと示唆するコメントもあり、影響の受け止め方にについて天文学者とは温度差があるようだ。また、全体で100億ドル以上の投資が必要というスターリンク衛星網はスペースXにとって重要な収益源となることが予想されており、開発を取りやめたり衛星数を大幅に削減したりといった手段を取るとは考えにくい。


天文学者の側も、世界中に通信手段を提供する衛星網事業によって、接続手段の恩恵を受ける人が多いことはよく知っている。インターネットに接続する手段を持たない人は、ITUの推計によると2018年末の時点で37億人いる。全世界対象の衛星通信網は公共性の高い事業になる可能性もある。

スターリンク衛星の軌道の積極開示が必要

では、どんな手段が取りうるだろうか。筆者は、スペースXによるスターリンク衛星の軌道、リアルタイムの飛行情報の積極開示だと考える。もしも、天文学者からの申請によってスペースXが衛星の軌道調整という「恩恵」を施す、何が重要な天文観測で何がそうではないのかスペースXが判断する、といったことになってしまうとしたら天文コミュニティと衛星通信事業者との間に溝が生じてしまうのではないだろうか。

現在、北米航空宇宙防衛司令本部が提供している公的機関による宇宙物体の軌道情報に加え、スペースX自らが軌道情報を公開する、情報に基づいて天文観測データからスターリンク衛星の影響を取り除くツールを提供する、といった積極的な態度が溝を埋めるものだと考える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中