最新記事

スペースX

夜空を「汚染」するスターリンク衛星の光害問題

2019年6月4日(火)15時30分
秋山文野

スターリンク衛星の太陽電池の展開イメージ Credit: SPACEX

<スペースXは巨大通信衛星網スターリンクの最初の衛星60機を打ち上げたが、その後、天文学への脅威になりうると問題になっている>

2019年5月24日、米スペースXは、同社の巨大通信衛星網Starlink(スターリンク)の最初の衛星60機を米フロリダ州からFalcon 9ロケットで打ち上げた。衛星は60機が一度にロケットから分離され、畳のような薄型の衛星が1機ずつ展開。550キロメートルの軌道に向かって高度を調整しながら地球を周回している。

スターリンク衛星網によって、イーロン・マスクCEOは全体で約1万2000機の通信衛星によるインターネット接続網を構成しようと計画している。360機の衛星を打ち上げた段階で北米とカナダの高緯度帯で、地上の接続手段が乏しい地域を対象にサービスを開始。1440機を打ち上げた段階で、世界全体にもサービスを拡大するとしている。高度550キロメートルの軌道には4409機の衛星を2~4年で打ち上げる目標で、続いてさらに低い高度へ約7000機の衛星を展開する。

歴史上打ち上げられてきた全衛星数を上回る計画

スターリンク衛星は、この計画だけで1957年のソ連スプートニク衛星以来、歴史上打ち上げられてきた全衛星数(およそ7000機とみられる)を上回る、桁外れの大型衛星網(メガコンステレーション)だ。この衛星網に対し、天文学者の懸念が高まっている。

日本時間24日の打ち上げ後、「スターリンクトレイン」と呼ばれる光の列が夜空に見えるとの情報が世界を駆け巡った。60機の衛星が地球を周回する中で、星のように明るい光の列になって見えるというものだ。最も明るく見えたのは打ち上げ翌日の25日。筆者も26日の21時ごろに見に行ったが、もやの多い日だったため一瞬「あれがそうかもしれない」という程度で、撮影などはできなかった。

世界各地で見られたスターリンクトレインは、板状の衛星本体や広がった太陽電池パドルが太陽光を反射して明るく見えていたものだ。最大でマイナス等級に見えた機会もあったといい、まるで夜空に新たな恒星の列が生まれたかのようだった。

スターリンクトレインは「光害」だ

天文学や星空観察を行うコミュニティにとって、スターリンクトレインはとてつもない脅威になりうる懸念が高まった。観測対象である天体の光をかき消してしまうからだ。しかも、衛星はこれから続々と打ち上げられ、角度の異なる軌道に最大で約1万2000機が周回することになる。

最初のスターリンクトレインは、日が経つにつれて暗く見えなくなっていった。これは、衛星が打ち上げられた直後は分離された400キロメートルの軌道だったが、徐々に目的の550キロメートルまで上昇しながら遠くなっているためだ。また、分離直後は近くに密集していた衛星の間隔は開きつつある。だが、スペースXは2019年内にあと2回から6回の打ち上げを予定しているといい、1、2ヶ月に1回はこうした現象が起きる可能性がある。

米アリゾナ州のローウェル天文台の天文教育指導員ヴィクトリア・ギルギスさんは、5月25日にスターリンクトレインが望遠鏡の視野を何度も通過する画像を公開した。低軌道の衛星は90分に1回程度地球を周回するため、観測中の望遠鏡の視野を通過する頻度は1度や2度ではないこともある。「光害」と呼ばれる現象が人工衛星によって夜空で起きる事態が、これまでにない規模で現実のものとなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中