最新記事

環境

中国・韓国を苦しめる北朝鮮の大気汚染物質PM10

2019年6月19日(水)11時00分
チャ・ジヒョン、イ・テホン

韓国の首都ソウルを覆うスモッグの元凶は周辺国から飛来するPM10や2.5とみられている KIM HONG-JIーREUTERS

<北朝鮮国民はマスクなしの無防備な状態に──中韓のデータ共有に肝心の汚染源は知らん顔>

WHO(世界保健機関)発表の2017年のデータによれば、北朝鮮では深刻な大気汚染により10万人に239人の割合で死者が出ている。主な元凶は中国の急速な工業化と北朝鮮の老朽化した火力発電所だが、森林面積の減少も汚染の悪化に拍車を掛ける。北朝鮮はアジアで3番目に急速に森林の消失が進む国で、1990~05年には東アジアで最大の減少率を記録した。

人々の健康を脅かしているのは主にPM10と呼ばれる粒子状物質だが、北朝鮮当局はこの危機を事実上放置している。

PM10は直径が10マイクロメートル以下、髪の毛の太さの5分の1ほどの微細なちりで、皮膚や目、鼻、喉に付着し、気道に侵入して呼吸器に損傷を与える。韓国の保健当局によれば、PM10で虚血性心疾患と脳卒中のリスクも著しく高まるという。

問題の深刻さにもかかわらず、北朝鮮ではマスクをするといった簡単な予防策も普及していない。国民の多くは微細な粉塵が健康を脅かすことを知らず、全く無防備な状態に置かれている。

環境汚染は国境を越えて広がる。隣国の中国と韓国にもPM10が大量に飛来し、3カ国とも深刻なスモッグが人々の生活を脅かしている。韓国は17年にOECD(経済協力開発機構)加盟国中で大気汚染レベルが最もひどかった。中国の大気汚染による経済損失は年間約380億ドルとも推定されている。

こうしたなか韓国と中国は手を携えて対策に乗り出した。既に両国の38都市がリアルタイムで大気汚染データを共有している。こうした情報は研究調査や政策決定、警報システムの整備に利用され、より有効な予防措置の導入に役立つ。強制力はないものの、中韓の諸機関が多数の汚染防止協定を策定中で、共同研究も複数行われている。

協力は地域安定にプラス

韓国環境省によれば、中韓は緊急時リスク軽減措置の共同実施と人工降雨の技術交換について協議を進めており、両国の連携は引き続き強化されるだろう。

国境を越えて飛来するPM10の健康リスクを軽減する措置については、中韓の協力で改善が期待できる。広域の早期警戒システムが本格的に稼働すれば、より正確な警報を出せるだろう。

PM10の発生を防ぐ方策についても協議が進んでいるが、これに関してはより具体的で長期的な解決策と連携強化が求められる。いずれにせよ、中韓の連携は問題解決に向けた大きな一歩だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、近い将来の利下げなお可能 政策「やや引き締

ワールド

米国、和平合意迫るためウクライナに圧力 情報・武器

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 6
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中