最新記事

イラン

米イラン対立エスカレート ホットライン不通が示す一触即発の危険性

2019年5月30日(木)11時00分

ツイッターでお互いを挑発

2016年にケリー国務長官とザリフ外相がお互いをよく知っていたのは、前年に合意に至ったイランの核開発を制限するための複雑な交渉があったからだ。

3年後の現在、トランプ政権が核合意から離脱し、イランの原油輸出に制裁措置を課し、さらにイラン軍の一部をテロ組織に指定したことを受け、両国のトップレベルの外交関係は崩壊している。

直接対話がないなか、両国のいがみ合いの舞台はツイッターになった。22日、イランのロウハニ大統領の側近はポンペオ国務長官に向けてツイートを投稿し、軍を派遣することでイランを挑発していると厳しく批判した。

大統領のアドバイザーであるフサメディン・アシュナ氏は、「@SecPompeoよ、我が国の地域に軍艦を連れてきて抑止力とはよく言ったものだ。それは挑発と言うのが正しい」と英語でツイートした。「そのような行為によってイランは自らの抑止力を示さなければいけなくなる。それを貴国は挑発という。サイクルが見えてきただろうか?」

これに先立つ19日、トランプ大統領は戦いを挑んでくるならばイランを「終わらせる」とツイッターに投稿。また、これ以前にもザリフ外相とポンペオ国務長官は長期間にわたり非難合戦を繰り広げていた。

ポンペオ氏も2月、ザリフ外相とイラン大統領を「腐敗した宗教マフィアの代表格」とツイッターでののしっていた。同じく2月、ポンペオ氏率いる国務省の幹部は、「@JZarifが嘘をついているかどうしてわかるのか?唇が動いているからだ」と投稿した。

ザリフ氏はこれに対し、ポンペオ氏とジョン・ボルトン大統領補佐官をソーシャルメディアで糾弾。2人の「イランへの執着」を「絶え間なく失敗しつづける異常なストーカーの振る舞い」と表現した。

米国の選択肢

米政府関係者や外交官、議員らは、実際に危機があったときにザリフ外相がポンペオ長官からの電話を受けないことはないだろうとみている。米軍との衝突によるリスクが大きすぎるからだ。

ポンペオ長官は21日の記者会見でも、米政府はイランとコンタクトをとり交渉をするための能力がないのではないかという懸念を一蹴した。

「伝達経路を持つための方法はたくさんある」

外交官らは、オマーンやスイス、イラクといった国は米・イラン両方とのつながりがあり、メッセージを伝達することができると語る。

元国防総省職員で、陸軍特殊部隊出身者として初の下院議員となったマイケル・ウォルツ氏は、イランに真剣な交渉を促すためには外交の凍結を支持するとの見解を示した。

「外交的に孤立していなければ、単発の会談を繰り返すだけで、圧力は減っていく」

一方、退役した元海軍中将で、2016年に10人の兵士が拘束された際、中東で米海軍の第5艦隊の指揮を執っていたケビン・ドネガン氏は、誰かにメッセージの伝言を頼むような間接的なコミュニケーションは、急速に変化する危機的状況においては煩雑すぎる、と語る。

仲介人を通すやり方は「時間を要し、一刻を争うような速さで変化する状況を鎮める機会も与えない」という。同氏は現在、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)で上級アドバイザーを務めており、現政権の政策についての見解を述べるのは控えた。

ドネガン氏もウォルツ氏も、米軍とイラン軍の間になんらかのホットラインがあることが望ましいと述べた。しかしドネガン氏やその他の専門家らは、イラン側がそのような取り決めには応じないだろうとの見解を示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中