最新記事

政治

オーストラリア総選挙、与党が「奇跡」の勝利 モリソン首相に長期政権の道

2019年5月20日(月)18時30分

5月19日、オーストラリアで18日に行われた下院総選挙は、与党の保守連合が予想に反して勝利したため、最大勢力の自由党を率いるモリソン首相の党内基盤は強まり、長期安定政権への道が開けた可能性がある。写真は2018年11月、パプアニューギニアのAPECに出席したモリソン首相(2019年 ロイター/Fazry Ismail)

オーストラリアで18日に行われた下院総選挙は、与党の保守連合が予想に反して勝利したため、最大勢力の自由党を率いるモリソン首相の党内基盤は強まり、長期安定政権への道が開けた可能性がある。

今回の選挙はまさにモリソン氏の個人的な勝利だ。他の主要閣僚は地元選挙区に張り付いて危うくなった議席を守るのに必死だった中、ほぼ1人で全国遊説に飛び回っていたからだ。フリンダース大学のヘイドン・マニング教授(政治学)はロイターに「独り舞台だった。後年まで特筆される実績になるだろう。モリソン氏は(劣勢の)見方を覆して勝ちをもたらした」と述べた。

モリソン氏は、昨年8月に自由党の右派が当時のマルコム・ターンブル首相を辞任に追い込んだ後、党内の政治的妥協によって後任に選ばれた人物。それ以降、毎回の世論調査だけでなく18日の出口調査でさえも、保守連合の支持は野党・労働党を下回ってきた。有権者の間に、ターンブル氏追放劇や温暖化対策などの政策実行力の乏しさを巡る不満が渦巻いていたことが理由だった。

しかしいざ暫定選挙結果が判明すると、モリソン氏は自身が「奇跡」と呼ぶほどの大逆転を見せ、過半数を確保するか、そうでなくても無所属議員の支持を得れば政権を維持できるめどが立った。

過去10年間、オーストラリアでは労働党、保守連合ともに短期間で首相が次々に交代する状態が続いていたが、モリソン氏が自らの力で選挙に勝ったことから、同氏を首相の座から下すのは難しくなっている。

勝利の戦略

複数の議員や選挙ストラテジスト、専門家などによると、モリソン氏の勝因には2つの側面がある。

1つは同氏が、クイーンズランド州の近郊など特定の重点地域で勝利し、予想された都市部の議席減の影響を打ち消す作戦を成功させたことだ。もう1つはこの選挙を、同氏と労働党のビル・ショーテン党首のどちらが首相として適切かの争いにして、ショーテン氏が掲げた政策の問題をあぶり出した点が挙げられる。例えば労働党は主により高齢で富裕な国民が恩恵を受けている2種類の税制優遇措置撤廃を提案したものの、若い有権者の支持を得るどころか、労働党は国民の資産を狙っているというモリソン氏の批判にさらされた。

かつて自由党党首を務めたジョン・ヒューソン氏は「モリソン氏の最大の資産はショーテン氏だった。最終的に首相コンテストにしてしまい、ショーテン氏は有権者から好かれたり信頼されなかった」と指摘した。

労働党のストラテジストは、与党側が一体となって近郊部や地方の有権者の支持をうまく取り込んだと分析した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中