最新記事

米中貿易

鍵を握るのは日本か――世界両極化

2019年5月13日(月)12時50分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

トランプ大統領がこのようなことを認めるわけがないから、これでは米中協議は[all or nothing]に陥ってしまう。すなわち、「追加関税全廃か」あるいは「中国からの輸入品全てに25%(あるいはそれ以上の)関税をかけるか」のどちらかになってしまうということだ。

劉鶴という、あの寡黙で慎重な人物がここまで公表してしまうということは、よほどの覚悟だ。当然、習近平国家主席とも相談の上だろう。したがって「追加関税全廃」を中国は譲らない腹積もりであることを窺わせる。

トランプ大統領は、もっと譲らないだろう。これまで、こんなに強気で攻撃してきた後に譲歩などしたら、次期大統領選にダメージを受けるだろう。

日本はどうする?

もし米国が総額5000億ドル以上に上る中国からの全輸入品に追加関税25%を課すことになると、米中貿易摩擦は長期化するだけでなく、絶望的な決裂になる。トランプ大統領のことだから、1秒後には何を言うか分からないので、不確定要素が大きすぎるが、しかし既に一部の日本企業が生産拠点を中国以外に移す動きを見せ始めているという報道が流れている。

これは良いことだ。

生産拠点を中国に置いていれば「メイド・イン・チャイナ」になり、対米輸出をしようと思えば全てに25%の関税がかかることになるので、まるで日本経済が制裁を受けているようなことになり、採算が合わない。

この現象が世界各国に及べば中国経済はさすがに持たないだろうが、ここで立ち止まって熟考してみる必要がある。

5月10日付のコラム<トランプ「25%」表明に対する中国の反応と決定に対する中国の今後の動向>をもう一度ご覧いただきたい。

そのコラムの「◆中国の貿易データが示す今後の動向:新興市場と戦略的新興産業」という項目の中の「1.新興市場に関して」で、EU諸国やASEAN諸国だけでなく、「一帯一路」沿線国との貿易額の大きさを中国が重要視していることを書いた。そして、これらを強調する目的は、「中国は何もアメリカ一国だけと貿易をしているわけではないので、アメリカが脅しを掛けてきても、痛くも痒くもない」ということを言いたいのだと判断される、とも書いた。

読者の中には「遠藤は親中だから」と、いつも反中反共と批判されている筆者にとっては「ありがたい」感想をお持ちになった方もおられたようだが、実はこれに関して日本の経済産業省が素晴らしいデータをまとめているのを知った。

以下に示すのは2018年4月の時点で、経済産業省がIMFデータを基に作成した 「中国と米国、EU、一帯一路関係国との貿易額比較」だ。

endo20190513111802.jpg

このグラフを見れば一目瞭然。

万一にもアメリカとの貿易が完全に無くなったとしても、EUと一帯一路関係諸国が残っただけでも、中国経済は成立することが窺われる。1年前でさえこうなのだから、現時点では「対一帯一路貿易額」はもっと大きくなっているだろう。内需として14億の国民がいるので、それも無視できない。

ということは、中国の未来、あるいは世界の未来には二つの可能性が待ち構えていることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中