最新記事

米中貿易

鍵を握るのは日本か――世界両極化

2019年5月13日(月)12時50分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

世界の二極化――鍵を握るのは日本か

一つ目の可能性は、世界各国の資本や企業が中国から引き揚げてしまって、中国経済が干上がるという、おそらく多くの日本人が期待している現実がやってくることだ。

二つ目は「中国が対米貿易を完全に無視する」ことによって世界が「米国か非米国か」の二極に分かれてしまう可能性である。

やっかいなのは、むしろ後者だ。

この場合は米国が孤立する。世界の多くの国が対米貿易をしない形で、つまり「米国なしで」、中国を中心としてグローバル経済を回していくことになる。これは筆者が最も恐れ、拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』で警告を発した所以でもある。

米国が孤立した場合、日米同盟で「固く」結ばれているはずの日本は、当然、米国側に立つだろう。そのような形で日本の国益を守れるかは別問題として、安倍首相は「ドナルドと100%共にいる」と誓ったのだから、米国を選択するにちがいない。

では前者の可能性の場合には、どうなるだろうか。

世界の多くの企業が中国からいなくなって中国経済が干上がりそうになった場合、二階幹事長が豪語したような「米国の顔色をうかがって日中の問題を考えていくものではない」を貫いて(二階発言に関しては4月26日付けコラム<中国に懐柔された二階幹事長――「一帯一路」に呑みこまれる日本>)、中国側に立ち、中国を助けるのだろうか?

だとすれば、中国は生き残るかもしれない。

何せ、日米同盟があり、トランプ大統領も「Shinzoと100%共にいる」と言ったのだから。

このように、世界が二極化した場合に、あるいは中国経済が干上がるか否かを決定する場合に、その動向を決めるのは、案外、日本であることが見えてくる。

もっとも、中国が経済的に干上がってもなお、二階幹事長が「米国の顔色をうかがって日中の問題を考えていくものではない」と言い続け、安倍首相が習近平国家主席の前で「一帯一路」への協力を強化しますと言った言葉を撤回せず、日中首脳のシャトル外交を希求し続けるのだとしたら、果たして日米同盟が存続するのかは疑問ではあるが......。

いずれにしても、日本の役割のなんと大きなことか――!

まさか「ダブルスタンダードのメリット」が、こんなところで発揮されようとは――!

(なお、このコラムは5月12日夜に執筆したので、5月13日にトランプ大統領がどう決意するかに関しての情報はまだない。)

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中