最新記事

アフリカ

南アフリカの黒人政党ANCに若い黒人がそっぽ

YOUNGER BLACKS DRIFT AWAY FROM ANC

2019年5月22日(水)17時40分
シソンケ・ムシマング(ヴィッツ社会経済研究所・研究員)

この変化の背景には世代交代がある。四半世紀前の歴史的な選挙後に生まれた若い世代は、親や祖父母の世代ほど投票行動へのこだわりがない。

アパルトヘイトの下で育ち、ずっと投票の権利を奪われてきた人たちには、黒人の投票権獲得に尽力したマンデラとANCに対する強い思い入れもある。しかし今の若い世代が知るANCは、「解放者」ではなく腐敗した者たちの牙城だ。

今回の選挙では、有権者の75%しか有権者登録をしていなかった。つまり投票資格のある国民のうち900万人近くが、あえて投票しない道を選んだ。しかも、実際に投票したのは登録有権者の3分の2。投票率は94年以降の最低で、前回14年の時より7.5ポイントも減った。

しかし、これを有権者の「しらけムード」のせいにするのは間違いだろう。選挙という手法には幻滅したとしても、彼らは必ずしも民主主義への参加を諦めてはいない。むしろ選挙への失望は、往々にして直接行動につながっている。

あの国の人たちが本当に政治に無関心なら、抗議デモが頻発することはないはずだ。だが実際には97年から13年の間に起きた抗議デモは6万8000件に上ると推定されている。

数年前のことだが、ヨハネスブルクのシンクタンク「暴力・和解研究センター」がそうした抗議行動に関する研究を発表した。08年以降に南アでどんな抗議デモが行われ、その結果がどうなったかを分析したものだ。

その研究者らは、「反乱型市民精神」という語を提唱した。たいていの抗議行動は大衆的な集会やデモ行進に始まっているが、その後に要求が無視されると行動がエスカレートしていたからだ。政府の代表が約束の時間に来なかったり約束を破ったりすると、たいてい抗議行動の統率は乱れ、時には暴力へと発展していた。

選挙に行くより街頭へ

政治家が国民の声に耳を傾けないのであれば、国民は選挙という通常のルートに頼らず、別の方法で問題解決の道を探る。それは当然かもしれない。

だが、それが民主主義を育むとは限らない。結果が欲しい住民たちの行動はますます過激化するだろうし、それで結果が得られるのであれば、わざわざ選挙に行く必要はないと思ってしまうだろう。つまり今回の投票率が低かったのは、自分たちの思いを実現したければ選挙以外の方法に頼ったほうがいいと、国民が思い始めた証拠と言えなくもない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、GCCにFTA早期妥結を要請 保護主義に

ワールド

バーツ高は行き過ぎ、経済に悪影響 中銀と協議=タイ

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、日銀会合前に円買い戻

ビジネス

中国万科、18日に再び債権者会合 社債償還延期拒否
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中