最新記事

生殖

男性にもタイムリミット──35歳までに精子を凍結すべき理由

2019年5月24日(金)15時30分
松丸さとみ

<年齢が生殖能力や妊娠、子どもの健康にどう影響するかに関して行われた研究で、高齢の男性の場合、生殖能力が下がるだけでなく、さまざまなリスクがあることがわかった>

女性の妊娠や子どもの健康にも影響

「子どもを産めるタイムリミット」──女性に向かって使われることがあるこの言葉だが、実は男性にもタイムリミットがあることがこのほど発表された研究で明らかになった。

研究を行なったのは、米ラトガース大学の医学部ロバート・ウッド・ジョンソン・メディカルスクールのウィメンズヘルス研究所で所長を務めるグロリア・バッハマン博士のチームだ。結果は医学誌マチュリタス7月号に掲載されている。米科学系ウェブニュースのサイエンス・デイリーによると、年齢が生殖能力や妊娠、子どもの健康にどう影響するかに関して行われた過去40年間の研究を分析したものだ。

バッハマン博士によると、「高齢の父親」のもとに生まれる子どもの割合は近年増加しており、米国では過去40年間で4%から10%に増えた。「高齢の父親」の定義は、バッハマン博士によると35歳以上とも45歳以上とも言われており、今のところ決まったものはないようだ。

これまで高齢の女性についての不妊や妊娠した場合の疾患などに関する研究は数多くなされてきたものの、高齢の男性に関する影響を取り上げた研究は非常に少ない、と研究チームは書いている。

それでも、データを分析したところ高齢の男性の場合、生殖能力が下がるだけでなく、パートナーの女性が妊娠した際には妊娠糖尿病などの合併症や、胎児の発育遅延、早産などの問題が起こるリスクが高まることが示唆された。生まれた子どもは、先天性欠損症や自閉症、小児がんなどのリスクが高まるという。

「35〜45歳で精子の凍結保存を考えた方がいい」

インディペンデント紙によるとバッハマン博士は、「女性の場合、35歳以降に起こる体の変化が、受胎や妊娠、子どもの健康などに影響するというのは広く認識されているが、ほとんどの男性は、高齢になったら自分にも似たようなことが起こる可能性があるということに気づいていない」と述べている。

バッハマン博士はさらに、年齢は精子にも影響し、「人が歳とともに筋力や柔軟性、耐性が衰えるのと同じように、精子も歳とともに『体力』が落ちていく傾向がある」と説明している。理由は、精子の質が低下することに加え、男性ホルモンのテストステロン・レベルが自然と減少していくからではないかと同博士は考えている。

サイエンス・デイリーが引用したバッハマン博士の話では、高齢の父親のもとに生まれた子どもは統合失調症と診断される可能性が高く、ある研究では父親が25歳以下の場合は141人に1人の割合であったのに対し、父親が50歳以上の場合は47人に1人の割合だった。

一方で自閉症のリスクは、父親が30歳で高まり、40歳以降になると横ばいとなり、50歳以降で再び高まるという結果が複数の研究で示されているという。バッハマン博士はまた、男性が高齢の場合、パートナーの女性の年齢が25歳以下であっても、妊娠しづらくなるとしている。

父親になるのを先送りしたい男性は、パートナーの女性と子どもの健康のためにも、35歳になる前、または少なくとも45歳までには、精子を凍結保存しておいた方がいいとバッハマン博士はアドバイスしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EU・メルコスル貿易協定、ルラ氏が年内締結に期待 

ワールド

トルコのインフレ率、27年には1桁へ低下 経済ロー

ビジネス

銀行・信金の貸出平残、8月は前年比+3.6% 為替

ビジネス

経常収支、7月は2兆6843億円の黒字 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給与は「最低賃金の3分の1」以下、未払いも
  • 3
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接近する「超巨大生物」の姿に恐怖と驚きの声「手を仕舞って!」
  • 4
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 5
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 6
    コスプレを生んだ日本と海外の文化相互作用
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 9
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 10
    「日本語のクチコミは信じるな」...豪ワーホリ「悪徳…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中