最新記事

ウクライナ大統領選

経験ナシ、政策ナシでも国家元首に ウクライナ、コメディアン大統領誕生で未知の世界へ

2019年4月24日(水)12時20分

4月22日、ウクライナは政治的に未知の領域に突入した。21日の大統領選決選投票で、政治経験ゼロの上に具体的な政策をほとんど示さなかった喜劇役者のウォロディミル・ゼレンスキー氏(写真)が、現職のペトロ・ポロシェンコ大統領に大差をつけて勝利したことが確実になったからだ。決選投票の投票所で21日撮影(2019年 ロイター/Valentyn Ogirenko )

ウクライナは政治的に未知の領域に突入した。21日の大統領選決選投票で、政治経験ゼロの上に具体的な政策をほとんど示さなかった喜劇役者のウォロディミル・ゼレンスキー氏が、現職のペトロ・ポロシェンコ大統領に大差をつけて勝利したことが確実になったからだ。

多くの投資家、西側諸国、そしてクリミア編入問題以降対立が続くロシアにとって、ゼレンスキー氏が外交や内政でどのような方針を打ち出してくるかは全くの謎に包まれている。

ポロシェンコ氏は決選投票で、自らをロシアの侵略に毅然と立ち向かい、ウクライナの一体性を守る人物だと有権者にアピールしたが、ふたを開けてみれば99%の開票を終えた時点でゼレンスキー氏の得票率が実に73%に達していた。

キエフの公益企業で働くある男性は、選挙結果はゼレンスキー氏への支持というより、汚職一掃などの公約を全然達成できなかったポロシェンコ氏への抗議の表れだと断言。「有権者はだれもが、ゼレンスキー氏に票を投じたのではなく、ポロシェンコ氏反対の意を示した。決選投票でゼレンスキー氏以外の候補が出てきていれば、その人物に票が入っただろう」と述べた。

ゼレンスキー氏は21日夜に勝利宣言し、「国民を決して失望させない」と約束した。来月には正式に大統領に就任する。

完全に不透明

ゼレンスキー氏は、東部ドンバス地方での戦闘に終止符を打ち、物価上昇と生活水準低下に幻滅が広がる中、汚職を根絶すると公約している。ただ具体的にどう実行していくか明らかにしてない。

投資家は、ゼレンスキー氏が外国からの投資呼び込みに必要な改革を加速させ、国際通貨基金(IMF)との間で合意した政策を継続するという確実な見通しをほしがっている。

ドラゴン・キャピタルの投資銀行家Serhiy Fursa氏は「次期大統領の経済政策は完全に不透明なので、われわれは今後どうなるか分からない。それが金融界を不安にさせている」と述べた。

ウクライナでは議会の権限が大きく、ゼレンスキー氏は自身の政党が1議席も有していない上に、ポロシェンコ派が最大会派を形成しているため、新たな政策を打ち出しても議会の承認を得るのに苦労する可能性がある。

ゼレンスキー氏には内閣の所管事項に関して提案をする権利もあるとはいえ、10月に予定される議会選挙まで、内閣はほぼ現行の顔ぶれが維持される公算が大きい。

米国と欧州連合(EU)、ロシアはいずれもゼレンスキー氏の外交政策を注視し、特に東部の紛争解決に取り組むのか、取り組むならどういう形で進めていくか見定めようとするだろう。

トランプ米大統領はゼレンスキー氏に電話をかけ、ウクライナの領土の一体性を支持すると約束。ドイツのメルケル首相も書簡を送り、同様に領土一体性を後押しするとともに、近くベルリンにゼレンスキー氏を招きたい考えを示した。

富豪との関係

ゼレンスキー氏は21日、ロシアとは欧州の支援を受けた協議を続けていくとともに、ロシアで拘束された24人の船員を含めたウクライナ人の解放を目指すと発言した。

一方、ロシア側はプーチン大統領がゼレンスキー氏の当選を祝福したり、両首脳の協力の可能性に言及するのは時期尚早との立場。ペスコフ大統領報道官は記者団に「(ゼレンスキー氏の)具体的な行動でわれわれがどうすべきか判断ができるだろう」と語った。

さらにペスコフ氏は、ロシアはウクライナ国民の選択を尊重するとしながらも、ロシアに居住して働く約300万人のウクライナ人の投票権が認められなかったことで大統領選の正当性に疑問符がつくとけん制した。

ゼレンスキー氏については、富豪でテレビ局を所有するイーホル・コロモイスキーとの関係が近すぎるとの批判が出ている。このテレビ局が放送する番組にゼレンスキー氏は出演していた。

ゼレンスキー氏は、大統領になればコロモイスキー氏から過剰な影響を受けないようにすると表明しているが、2016年に国有化されたウクライナ最大のプリバト銀行をどう扱うかが最初の、そして最も重大な試金石になる。

ウクライナ政府は、IMFが支援した銀行システム健全化の一環として、プリバト銀行をコロモイスキー氏の手から取り上げた。しかしキエフの裁判所が先週、こうした所有権の変更は違法だとの判断を示している。ゼレンスキー氏は、プリバト銀行をコロモイスキー氏に戻したり、コロモイスキー氏に補償を行うつもりはないと繰り返してきた。

IMFは、ゼレンスキー氏が天然ガス価格の市場実勢までの上昇を容認するかどうかも注目するだろう。この問題は政治的に微妙で、ゼレンスキー氏がこれまで態度をあいまいにしてきた分野の1つだ。

(Andrew Osborn記者、Matthias Williams記者)



[キエフ 22日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月24号(2月17日発売)は「ウクライナ戦争4年 苦境のロシア」特集。帰還兵の暴力、止まらないインフレ。国民は疲弊し、プーチンの足元も揺らぐ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ウーバー、自動運転の充電基盤に1億ドル超投資 ロ

ビジネス

NZ中銀、次の金利操作は引き上げの可能性が高い=シ

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米ハイテク株高を好感 一時5

ビジネス

米WD、サンディスク保有株一部を32億ドルで売却 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方...勝利のカギは「精密大量攻撃」に
  • 4
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 5
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではな…
  • 10
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中