最新記事

オピニオン

国際秩序を脅かすアサンジは法で裁かれるべきだ

Julian Assange: A Life Above the Rule of Law

2019年4月15日(月)18時00分
トッド・ローゼンブルーム(米アトランティック・カウンシル上級研究員)

アサンジは、イギリスの法執行機関の行動は「違法」だと主張している。これは、ルールを適用するとき、しないときを自分の都合で身勝手に決めてきたアサンジのやり方からすると、皮肉中の皮肉といえるだろう。

アメリカ、スウェーデン、およびイギリス政府は7年以上に渡って国際的な法制度への忍耐と尊重を示したことを称賛されるべきだ。アサンジの行為が2016年の米大統領選挙をゆがめたこと、そしてドナルド・トランプ大統領がウィキリークスに対して「愛」を告白したことを考えると、アメリカの法執行機関にとって米政府との連携はやりにくいものだったに違いない。

アサンジの行為は、個人の力で、デジタルセキュリティの多くの隙間を悪用することができることを実証している。現代史において、危害を引き起こす能力を有する個人や比較的力の弱い国家、非政府犯罪組織(NGO)などからの攻撃に対して、今ほど国家が弱い存在になったことはない。

これまで国家は、総合的な力を持っていた。技術的な進歩を導き、船舶や戦車、航空機を生産したのは産業界でも、それらを所有し、運営し、総力を結集させるのは政府だった。そして権力をいつ、どのように使うかを決めたのも政府だった。

金で動くサイバー戦士の脅威

今日、個人やテック企業は、その能力と総合的な技術的手腕において、政府をはるかに凌いでいる。真っ先に適応しているのは犯罪者だ。そしてテック企業はサイバーセキュリティにおいて、政府と協力するにせよ、敵対するにせよ、対等の立場にある。

ニューヨーク・タイムズが3月21日に掲載した「新時代の戦争:インターネットの傭兵はいかにして権威主義的な政府と戦うか」によれば、世界で最も優れたサイバー戦士の一部がみずからのスキルを自由市場で合法的に民間企業に売却している。そのおかげで、強国とはいえない国々が世界の舞台できわめて高度なサイバー国家として振る舞うことが可能になっているという。

こうしたサイバー戦士のなかには、次のジュリアン・アサンジのような人々と手を組み、デジタルの「暴露屋」に協力する連中もいるはずだ。

国内外のいかなる法制度によってアサンジが裁かれるにせよ、これまでの彼の行動は法の支配と民主的な統治システムの対極にあるものだった。アサンジは自分が逆らい、無視した法の保護を与えられる。これはきわめて重要なことだ。

望みうる最善の結末は、裁判の過程でアサンジの居場所は法廷に他ならない、と彼の崇拝者が悟ることだ。それ以外の結末では、アサンジを崇拝し、国際的なシステムは不正だらけで、アサンジのやり方が抵抗の唯一の方法だと思い込む者がなくならないだろう。

(翻訳:栗原紀子)

The article first appeared on the Atlantic Council site.

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ダライ・ラマ「一介の仏教僧」として使命に注力、90

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強

ワールド

英外相がシリア訪問、人道援助や復興へ9450万ポン

ワールド

ガザで米国人援助スタッフ2人負傷、米政府がハマス非
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中