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メディアで報じられない「金と欲」に翻弄された東日本大震災被災地の現実

2019年4月3日(水)16時55分
印南敦史(作家、書評家)

著者は必ずしも、住民のこうした見方に賛同しているわけではない。ただ、それが人体への影響を考慮したものではなく、なんらかの意図があって引かれた線であるという思いは消し去ることができないという。それは、賠償金を「もらい損ねた」いわき市民としての思いでもあるのだろう。


 金の事だけを考えれば、やはり何とも気の毒なのは、高い税金をいわき市に納めて、罹災証明書も出ていなければ賠償金もないいわき市民や津波被災者である。
 特にいわき市や、宮城県の津波被災者は津波で住むところを失い、当初は体育館など避難所での生活を余儀なくされた人も多い。しかし原発事故の賠償金の対象外であるいわきの津波被災者は十分な支援も受けられないままでもある。
「これは心情的なものでもあるんですが......いわき市の津波被災者も、原発避難者も立場的にはほとんど同じだと思うんです。どちらも家を無くして故郷を失ってますからね。でも、片方は数千万から億のお金を手にして、もう片方は一銭ももらえない。その両者が同じ避難所暮らしをしているんだから、格差がより浮き彫りになってしまう」(いわき市の津波被災者の男性)(80〜81ページより)

そして賠償金に関しては、もうひとつ深刻な問題がある。本来であれば、住むところを失った人が賠償金で新たに新居を建てるのは当然のことだ。そのための賠償金なのだから。ところが現実問題として、国が家賃無料で提供する仮設住宅に住みながら、賠償金を遊興費に使ってしまう人も少なくないのだ。


 一部の週刊誌などに取り上げられたが、震災後の当初は仮設住宅の駐車場には、建物と不釣り合いな、ベンツ・レクサス・BMWなどの高級車が並んでいるのも事実であった。もちろん東電の賠償金で購入したものだ。
 しかし現在の仮設住宅にその姿はない。震災から8年という月日が経ち、現在、仮設住宅に残っているのは高齢の被災者ばかりで、多くの方は土地・建物を購入し、新しく生活する場所を既に確保しているからだ。
「要は、引っ越し先のガレージに収まっているんですよ。試しに原発避難者が多い新興住宅地に行くと、ベンツやレクサスがたくさん走ってますからね。まあ今となってはどれが彼らの車かわかりませんけど......当時、高級車がバカ売れしてたことは事実です」(いわき市民の男性)(174〜175ページより)

現に震災後は、いわきレクサスが販売台数全国1位を獲得したのだという。個人の金で何を買おうが自由だとはいえ、そうした行為が賠償金を受け取れなかったいわき市民を刺激するであろうことは間違いないだろう。

ちなみに著者の妻の実家は福島県双葉町の被災者だというが、同県白河市の仮設住宅で一人暮らしをする母親はもちろん、栃木県に3階建ての貸家を借りて暮らす息子夫婦も、いまなお仕事をしていないそうだ。その理由もまた、賠償金にある。

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