最新記事

教育

学力格差より深刻な、低所得層の子どもの「自尊心格差」

2019年3月20日(水)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

自尊心は他者から認められる経験で育まれるが、それがどれほど得られるかは家庭環境によって異なる。褒められる頻度も違う。子どもの(些細な)取柄を見つけて褒めるのには労力が要るが、低所得層にはその余裕がない。嫌でも目に付く短所をあげつらい、叱る(頭ごなしに怒る)ことの方が多い。それを通り越して虐待に走ってしまうこともある。これでは、子どもの自尊心は打ち砕かれる。

実際、褒めることは大事なことで、褒められる頻度と自尊心は関連している。家庭の経済力が同レベルの児童を取り出し、家で褒められる頻度と自尊心のクロス集計をしてみる。<図2>は、結果を図示したものだ。

miata190320-chart02.jpg

家庭の年収が同程度であっても、親によく褒められるグループほど自尊心が高い傾向にある。褒めることは、自尊心の涵養(かんよう)にあたって効果があるようだ。「叱るより褒めよ、叱る前に褒めよ」。多くの育児書に書かれていることだが、これは正しい。

自尊心は、自信をもって社会のあらゆる領域に参画し、自己を成長させることを可能にする。親から子への富の再生産の要因として最も大きいのは、自尊心格差であるかもしれない。「褒める」のはそれを断ち切るのに有効だが、親の心がけ次第でできることだ。学校でも、褒める指導に重点をおく必要がある。

加齢に伴い、自尊心の基盤は多様化していくことにも注意したい。学業成績ばかりを重視し、子どもの個性や嗜好を圧し潰すのは論外だ。昔に比べて、生き方はより多様になっているのだから。

<資料:国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する調査』2014年

ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

植田日銀総裁「賃金に上昇圧力続く」、ジャクソンホー

ワールド

北朝鮮の金総書記、新型対空ミサイル発射実験を視察=

ワールド

アングル:観光客の回復遅れるベルリン、「観光公害な

ビジネス

アングル:黒人向け美容業界にトランプ関税の打撃、ウ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 8
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中