最新記事

ドイツ

欧州の優等生ドイツは景気後退の瀬戸際? トランプ関税とブレグジットの二重苦が襲う

2019年3月9日(土)10時42分

ドイツが2つのリスクに直面している。米国による自動車輸入関税の大幅引き上げ、そして合意なきブレグジットだ。写真は輸出される独自動車大手フォルクスワーゲンの車。独エムデン港で昨年3月撮影(2019年 ロイター/Fabian Bimmer)

ドイツが2つのリスクに直面している。米国による自動車輸入関税の大幅引き上げ、そして合意なき英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)だ。欧州随一の経済大国にとって、黄金の成長期に終止符を打ちかねないダブルパンチだ。

メルケル首相と閣僚たちは、最悪のシナリオが実現した場合に備え、その影響を緩和すべく水面下で動いている。

ドイツ経済が停滞、あるいはリセッション(景気後退)にまで至ることがあれば、ユーロ圏全体の足かせとなり、欧州中央銀行(ECB)による金融緩和政策からの出口戦略も不透明になってくる。

ドイツ財務省の文書によれば、景気減速により税収がこれまでの試算を下回ることで、ドイツ政府はただでさえ2023年までに最大250億ユーロ(約3兆1700億円)の財政赤字を抱える恐れに直面している。

とはいえ、ドイツ政府高官が匿名を条件にロイターに語ったところでは、ショルツ財務相はリセッションの脅威を重く見て、財政赤字に関する厳格なルールを修正する構えを見せているという。

「二重苦が現実のものになるとすれば、われわれも何かマジックを使いたいところだ」とこの高官は言い、政府が財政出動措置を検討していることを示唆した。

さらにこの高官は、「この状況は、新規起債ゼロと債務ブレーキというわが国の政策にとって試金石となるだろう」と付け加えた。

ドイツは昨年辛うじてリセッションを免れたものの、米国の自動車輸入関税が25%に引き上げられるリスク、そして英国がEUとの今後の通商関係に関する合意なしに3月29日にEUを脱退するリスクのどちらについても、特にぜい弱な立場にある。

連邦統計局のデータによれば、ドイツの国内総生産(GDP)の半分近くを輸出が稼ぎ出しており、中でも自動車は年間2300億ユーロという圧倒的な主要輸出品だ。

同じデータによれば、昨年、ドイツ車にとって最も重要な輸出先は米国であり、輸出金額は272億ユーロだった。中国の247億ユーロ、英国の225億ユーロがこれに続く。

ドイツ自動車工業連盟(VDA)のデータによれば、台数ベースでは英国が66万6000台で首位、米国が47万台で2位となっている。

「米国第一」の旗印を掲げるトランプ米大統領は、巨額のドイツ貿易黒字を繰り返し非難しており、米国政府がEUとの通商合意に達することができなければ、欧州車に関税をかけると警告している。

2月中旬に米商務省がトランプ大統領に提出した非公表の報告書は、輸入自動車・自動車部品を米国の国家安全保障に対する脅威と指定することにより、これらに関税をかける道を開くものと広くみられている。

トランプ氏はこの勧告に基づいて行動するかどうかを90日以内、つまり5月中旬までに判断することになっている。

一方、合意なきブレグジットという事態になれば、英国は世界貿易機関(WTO)ルールが適用される第3国としての地位に戻ることになる。

すると、ドイツ車に対する英国の輸入関税は約10%に上昇することになる。トラックおよびピックアップトラックに関しては、最高22%の関税が適用される。また、港湾・国境で税関検査が行われることにより、ジャストインタイム方式のサプライチェーンに混乱が生じる可能性が高い。

「合意なきブレグジットというシナリオは、EU27カ国の企業および従業員にとって深刻であり、重大なリスクをもたらすだろう」とVDAの広報担当者は言う。「ロジスティクスが大きく損なわれ、高い通関コストが発生する」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡・20人負傷 ガ

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 

ワールド

アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中