最新記事

ドイツ

欧州の優等生ドイツは景気後退の瀬戸際? トランプ関税とブレグジットの二重苦が襲う

2019年3月9日(土)10時42分

悪循環

コメルツバンクとIFO経済研究所それぞれの試算によれば、2つのシナリオが両方とも現実になれば、複合的な影響により、長期的にはドイツGDP成長率が0.7%ポイント下がる可能性がある。

すでにドイツ政府は、今年のGDP成長率が2018年の1.4%から1%に減速すると予測している。だがこの予測は、米国との通商摩擦のエスカレート、合意なきブレグジットの両方を回避できるという前提に基づいている。

「無秩序なブレグジットの場合、不確実性の増大や調整プロセスなどの短期的な悪影響が予想されるが、これらを数値化することは難しい」と、ある経済関係省庁の広報官は語った。

だがこの広報官によれば、複数の研究では、合意なきブレグジットは、長期的にドイツの成長率に年0.2%ポイントの打撃を与えるという試算が出ているという。ドイツ車に対して米国の関税引き上げが与えるとみられるダメージについては、具体的な数値を示さなかった。

独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のハーバート・ディエス最高経営責任者(CEO)は、英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューの中で、米国の関税引き上げは同社にとって年間25億ユーロのコスト増につながる可能性があると述べた。

IFO経済研究所の試算では、トランプ政権が輸入車に対して25%の関税をかけようとしているのであれば、ドイツ車の対米輸出は長期的に約50%も減少する可能性があるという。

コメルツバンクのエコノミスト、イエルク・クレーマー氏は、「ドイツのGDP成長率を約0.5%ポイント引き下げることになるだろう」と話す。

エコノミストらは、米国の関税引き上げと合意なきブレグジットが重なった場合、企業の景況感と消費意欲にも打撃が及び、ドイツ経済全体が悪循環に陥るだろうとみている。

経済に対する先行き不安が労働市場にも波及するようだと、国内経済の大黒柱である家計消費もぐらついてくる、と市場調査会社GfKのロルフ・ビュークル氏は警鐘を鳴らす。

「年間を通じて、労働者が、自分もいつ解雇されるか分からないという印象を抱くようになれば、消費の雰囲気にも直接的な悪影響が生じる」と同氏は言う。

さらに、成長率の低下は税収の低下を意味することから、経済を悪循環から救い出すような大規模な財政出動を政府が取りまとめる力も限定されることになる。

連立与党の関係者がロイターに語ったところでは、ショルツ財務相は現在、4年間で50億ユーロの優遇税制により、企業の研究開発投資を支援することを狙った法案を策定中だという。

この計画の財源は想定されている財政黒字であり、その分、他の財政出動措置を講じる余地は小さくなる。

「政府がリセッションに対抗するために新たな財政出動措置を提示したいと考えても、選択肢は2つしかない。税金を上げるか、新規国債を発行するかだ」と、メルケル連立政権のある与党議員は匿名でこう語った。

(翻訳:エァクレーレン)

Michael Nienaber

[ベルリン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 「外国人問題」徹底研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「『外国人問題』徹底研究」特集。「外国人問題」は事実か錯覚か。移民/不動産/留学生/観光客/参政権/社会保障/治安――7つの争点を国際比較で大激論

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州極右・ポピュリスト政党、グリーンランド巡りトラ

ワールド

グリーンランド巡る武力行使取り下げ、米大統領側近の

ビジネス

ゴールドマン、26年末の金価格予想を500ドル上方

ワールド

仏大統領府、トランプ氏の薬価巡る発言を「偽情報」と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中