最新記事

資本主義

「途上国支配に最も有効な方法は債務漬けにすること」ジグレール教授の経済講義

2019年3月8日(金)10時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

アフリカの農民の大半は、化学肥料も作物用の種も入手できず、農業銀行もなければ、強力なトラクターも、灌漑設備もない。というのも、各国政府は対外債務に押しつぶされており、国庫には農業に投資するお金が一銭もないからだ。

少しでも入ったお金――セネガルは落花生、マリは綿の輸出で――は、債務利子や減価償却(返済)の名目で、そのままヨーロッパやアメリカの銀行に行ってしまう。結果、農業に投資するお金が一銭も残らない。

ちなみにサハラ砂漠より南のアフリカでは、人工的に灌漑が行われているのは農地の3パーセントのみ、その他の農地では、いまだに天水農業が行われ、3000年前とまったく変わらないのだ。

農業機械に関しての状況も悲惨だ。世界ではトラクターが約4000万台使われているが、動物による農具がまだ3億台もある。この問題が決定的になっているのだね。

たとえばカナダ中西部の肥沃な地サスカチュワン州の大平野では、200馬力のトラクターのおかげで農民がひとりで2000ヘクタールを耕している。しかし、発展途上国の農民27億人の大半は、現在もなお鉈(なた)や鋤(すき)だけで畑を耕している......。

この債務はどこからくるの?

――まず、これははっきり言っておく。債務は、世界の弱肉強食の理念と、グローバル化した金融資本のオリガーキーの立場を保証しているということだ。植民地からの独立が続いた時代に、世界銀行やIMF(国際通貨基金)といった国際組織が、第三世界の国々に莫大な資金を貸付け、西欧の資本主義をモデルにした工業化と、インフラの開発を推奨した。

植民地は消滅したが、しかし、旧宗主国は引き続き旧植民地の資源を開発し、場合によっては市場も開設した。これらの国の一部の独裁政権は貸付けを利用して武器を購入し、戦争をして、国民には圧政をしいた。

貧困国が銀行に利息も減価償却も払えなくなり、万策尽きると、返済の猶予や再分割、さらには債務の減額まで頼む事態に陥ってしまう。そして銀行側はこの状況を利用する。つまり、債務国の要請を――いずれにしろ一部――、きわめて厳しい条件つきで受け入れるのだ。

条件とは、鉱山や電気通信の公共サービスなど、採算性のある少数企業を民営化させ、外国――つまり債権国――へ身売りさせる。あるいは、これらの国で事業展開する多国籍企業への不当な税制の特権、自国軍に装備する武器の強制的な購入、などだね。

ということは、そうなると、債務国はお金がないので国を正常に運営できず、独立性を失うのでは?

――たしかにそうだね、ゾーラ。債務の支払いができなくなると、国は国家予算に組み込まれた支出を減額しなければならなくなる。

それで苦しむのは誰だろう? いわずとしれた国民で、最初にくるのが底辺にいる貧困層だ。ブラジルの大地主や、インドネシアの支配階級は、公立学校が閉鎖されても困らない。子どもたちはフランスやスイス、アメリカの学校で勉強しているからだね。

公共病院が閉鎖されたら? これも気にしない。家族はジュネーヴの大学病院やフランスのヌイイ=シュル=セーヌのアメリカン病院、ロンドンやマイアミのクリニックで治療を受けている。

負債の重圧は最初に貧困層を苦しめるのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中